第2-2話:商談
到着の翌々日、3人(2人と一体)はアジワブ社を訪問した。
オラティスの企業名で、予め商談を予約していた。2日あけたのは、駅からの旅程が不測の事態で遅れるのに備えたためだ。
応対したのは、アジワブ社の、ロボット事業の担当者たち。全員男性である。
3名とも、マルガリータの「自然な会話機能」に、感銘を受けていた。話の内容だけでなく、表情や身振りまで、ごく自然で、愛嬌もある。まるで本当の人間だ。
「さすが、オラティスのロボットです」
「長年、銀河中で、お客様と会話しておりますので」
タカフミが控え目に自慢する。
しばし、マルガリータとの会話を楽しんだ後、年長の男性が質問した。
「それで、共同研究のご希望は、どんな内容ですか?
『ロボットの制御について』とは伺っていますが」
「私どものロボットは高度に自律化されていますが、それでもお客様の相手をしていると、対応できない場面が出てきます。
そうなると、人間のスタッフがリモートで指示するのですが、なにぶん、伝えきれない内容というのがあるわけでして。
お客様の反応を見ながら言葉を選んだり、表情や身振りを変えたり、といったことが必要になります。
そんな時に、ロボットに指示するのではなく、ロボットに成り代わって、接客したいのです。
言い換えれば、ロボットを、自分の体のように制御したい」
「それはつまり、フルダイブのアバターのような感じで、ロボットを制御したい、ということですか?」
「まさにそれです」
男たちは、怪訝な顔をした。
「しかし我々の事業はロボットの製造でして、そのような内容は・・・」
そこでマリウスが口を開いた。
「人間と機械を接続する技術を、持っていると聞いた」
3人は一瞬、顔をひきつらせた。
それから笑みを浮かべると、
「それは何かの間違いでしょう。
我々も、ロボットに自然な素振りをさせることに、だいぶん苦労しております。
それこそ、『夢の技術』ですよ」
タカフミは、少し踏み込むことにした。
「私どもの商圏は、銀河ハイウェイの全域に広がってます。
フルダイブ型の配備数は膨大な数になりますよ。
御社にとっても大きな機会と思います」
「魅力的なご提案ですが、無い袖は振れません」
人間の強化技術について、彼らはきっぱり、存在を否定した。
会話が途切れた。空白を埋めるように、今度は若手の男が口を開いた。
「ところで、我々のロボットをお使いになりませんか?」
「人型ロボットは、私たちも持っています」
タカフミはマルガリータを示しながら言う。
「もちろんです。自然な立ち振る舞いも素晴らしい。
一方、我々の製品は、『リアルさ』を追求しています。
実は、カタログには記載していない機能も搭載しておりましてね。
いかがでしょう? 店舗サービスの『強化』をお考えでしたら、ぜひご検討いただきたく」
タカフミはマリウスに視線を向けた。
「業態によってはニーズがあるかもしれない。
店舗統括者と会話してみる」
「前向きなご検討を期待しております」
あとはまた雑談になり、商談は終了した。
**
「上手くいきませんでしたね」
タカフミはがっくりと肩を落とした。全銀河系に渡るビジネスチャンスを示せば、食いついてくると思ったのだが。
「仕方がない。商談が出来ただけでも、前進だった」
ツェレルが商談を依頼した際は、オンラインで短時間の打ち合わせのみ。内容も公開情報しか話してくれなかったという。
「それにしても、カタログに載っていない機能って、何でしょうね?」
マルガリータが、指を頬に当てて首を傾げた。頭の上に「?」のマークが浮かんでいる。
三角形のパネルに内蔵されたギミックで、コミュニケーション補助ツールである。
ロボットよりマリウスに付けるべきかもしれない。
「リアル追求ですよね。本物の肉体っぽいんですよね? ふーむ」
往来で、なにやら不穏な話題になりそうな気がして、タカフミが止めようとすると、
「ああ! 分かりました!」
マルガリータが手と大声を上げた。頭上に「!」が浮かぶ。目立ってしょうがない。
「外観だけでなくて、中の方も作りこんでいる、ってことなのでは?」
「それが何の役に立つんだ?」
「この話、もう止めません?」
「つまりですねっ」
マルガリータが、勝ち誇ったように2人を指さす。
「ご飯が食べられるんですよ! 食事ができるロボットです」
「接客ロボットにがつがつ食われて、客に何のメリットがあるんだ?」
「グラスウェン様! 私は最新型なので、『食レポ』機能が付いているんです。
早速使って下さい。あのお店はいかがですか?」
「お前な・・・
あ、あの店にしよう。電池が売ってる」
「もう! グラスウェン様ってば、いけず!」
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