第2-11話:黄と黒

 夜半に目が覚めたように、タカフミはぼんやりと意識を取り戻した。



 医療ポッドの中で、治療台の上に横たわっていた。

 治療台を覆うように、透明なケースがかぶせられている。

 天井には機械がぶら下がっていた。傘の骨のような細い棒が、丸く集まっている。



 体は動かなかった。痛みもない。

 半覚醒の金縛りなのか、それとも麻酔によるものなのか、分からなかった。

 なぜ自分がここにいるのかも、思い出せない。


 これは夢ではないか。

 ぼやけた意識で、そう思った。

 視界の中に、マリウスが2人、いたからだ。



 一人は黒い軍服を着ていた。シャツにホットパンツの、いつもの艦内服とは違う。きちんとした身なりである。


”そういえば、地球で記者会見する時に、あの服だったな。

 あの時はびっくりした。まさかあの少年が・・・”

 タカフミの意識はしばらくの間、種子島での思い出の中を、さまよった。



 もう一人は「鎧」姿だった。機動歩兵が装着するパワードスーツである。

 バイザーは跳ね上げられて、顔が見えた。

 鎧の色は、灰色でも緑でもなく、黄色だった。



 2人は向かい合って会話していた。

 着衣の違いがなければ、鏡像に見えただろう。

 どちらも無表情なので、単なる世間話なのか、それとも深刻な会話なのかも、分からない。


 声は良く聞こえなかった。

 それに、ぼやけた頭で、外国語を聞き取るのは困難である。

 かろうじて、単語が時折、耳に入ってくる程度だった。


「疑惑がついに・・・」

「・・・支援をあてにできない」

「由々しき事態だ」


 会話が続く。深夜のラジオのように、次第に声が遠くなる。



「これを使え」

 黄衣こうえの人物が、がタカフミを指さした。


 それまで棒立ちで聞いていた黒軍服が、激しく首を振る。

 すると、黄衣の顔が、変化した。

 不快と怒りを表明するように、顔をしかめたのだ。


"あんな表情、出来るんだ。

 でも俺は、微笑みの方が、好きだな"

 夢の傍観者の気楽さで、タカフミは呟いた。声は出なかった。



「アナクレオンを探れ」

その言葉を最後に、タカフミは再び、深い眠りの中に落ちていった。


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 気に入っているシーンに感想をもらうと、ニヤリと嬉しいです。

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 わたし自身も、打ち上げタイミングに迷うことがありました。

 連載中の作品については、「続きが気になるな」と思ったら、打ち上げるようにしています。ご参考になれば幸いです。


 引き続き、お楽しみください。m(_ _)m

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