第6-3話:ルクトゥス
タカフミたちはエアカーに乗った。駅で見たものより大きく、定員は8名。兵士の手動操縦で走り出した。
「クローンが皇帝になるんですか?」
「え? いや、そんな規則はないですよ」
3人掛けの真ん中に座ったマルガリータが、驚いたような顔で答えた。
「たまたま、ですよ」
「たまたまって・・・」
マルガリータの向こうから、ツェレルが身を乗り出した。
「国は1万年前からある。けれど、クローン帝は6人目。
レアケースだよ」
そう言ってから、マルガリータに聞く。
「マルガリータは、同じ顔と知っていた?」
「地球に行った後すぐに、調査を命じられたので、その時に」
「そういうの、すぐに知らせてくれよ」
前の席から、マリウスが顔を覗かせて言った。
「あの頃はまだ、髪が短かったでしょ。雰囲気が全然違ったの。
よく似ているな~とは思ったけれど。
それにマリウスたちは、前線に配属されたじゃない。
こんなこと、話しづらくて」
次にツェレルが、前の席に身を乗り出した。
ジョセフィーヌの青いボディースーツを眺める。
「情報軍に戻ったんだね?」
「ああ。今の任務に必要なんでな。陛下に戻してもらった」
戒めの長髪を梳く。
「ちゃんと謝ったぞ」
何をやらかしたんだろう? タカフミが、質問しようかと迷う内に、エアカーの高度が上がった。
**
都市部から離れた郊外の草原。その中に、塔のようにそびえる巨石があった。
頂上の平坦部にエアカーは着地。
ファルコたちが、野戦用の椅子と机を並べた。
椅子はどれも同じ。その一つにマクシミリアンが座る。マリウスを手招きすると、隣を示した。
向かいにジョセフィーヌとツェレルが着座。
タカフミがツェレルの後ろというのは、客分であるから妥当として(むしろ、物扱いの自分に、椅子があるだけ有難い)、マルガリータが更に後ろに、距離を置いて座っているのが気になった。
「なんでそんなに離れるの?」
「いやー」
マルガリータは困ったような顔をした。
「ちょっと・・・怖いんです、あの人が」
「無茶も含めて、マリウスで慣れているのでは?」
「あの人は、
『クローンであっても、1人1人違う。その中でも、自分は特に違っている』
という強い自負をお持ちで。
マリウスと、顔も立ち振る舞いも同じだ、と言ったら、すごく怒られたの」
「地雷を踏んだ、ってやつか」
機動歩兵が食器を配った。
「軽食を用意した。食べながら進めよう」
マルガリータの顔が、ぱっと明るくなった。
「御前会議ですよ。どんなメニューですかね」
野戦用の椅子と机を見て、期待は出来ないな、とタカフミは思った。
水と、皿に盛った塩と、戦闘糧食13番だった。
「おい、ふざけてるのか」
ジョセフィーヌが、声をひそめてファルコに詰め寄る。
「あきらめてくれ」
ファルコ、視線でマクシミリアンを示した。
視線の先では、マクシミリアンが、塩をコップの水に投入していた。
マリウスの凝視に気づき、説明する。
「皿から舐めると、苦情を言う者がおるのだ」
「大変ですね」
「うむ」
がたがた、という音がした。
立ち上がったマルガリータが、手を挙げていた。
「何か」
「恐れながら申し上げます。
わたしが差し入れすることを、お許しください」
「一刻も早く始めたいのだが」
マルガリータは、怖がっていたが、引かなかった。
「機動歩兵に、わたしの部屋に取りに行かせてください」
マクシミリアンはマリウスを見た。マリウスは頷いた。
「血と勝利の他にも、必要なものがあるのです」
マクシミリアンも頷くと、ファルコを呼んだ。
「あの。わたしの部屋に
その28番を持ってきてください」
「28番ね、了解。お前の部屋、葛籠がいくつあるんだよ」
**
マクシミリアンが、会合の趣旨を説明した。
「ここにいる諸君は承知しているだろう。
MIの監視をすり抜けて、起こるはずのないことが起こっている。
黒幕が分からない以上、通信は危険と判断した。
これが諸君を呼んだ理由だ。
ではまず、ジョセフィーヌの報告から聞こう」
ジョセフィーヌは立ち上がると、空中ディスプレイを大きく広げた。
「オストロミル社は、星間航法船を建造していました。武装している」
宇宙船が映った。全長200メートルほどの円筒形だ。
「ストルミク連邦には、星間航法船を作る技術はない。
臨検すると、我が国の超電導バッテリーを搭載していました」
「バッテリーの製造地はどこか?」
下問に、ジョセフィーヌは首を振る。
「製造番号で調べると、キグナス腕にある惑星が製造地です。
しかし、同じ製造番号のバッテリーが、他の艦で使用中でした」
「番号を偽装しているか。
ただの盗品ではないな」
「バッテリーを提供したのが、アジワブ社です。
アジワブ社の社長は、3代に渡って、星系外の人物と取引しています。
相手はルクトゥスと名乗ったそうです」
その名を聞いて、マリウスが尋ねた。
「ルクトゥス? 司星官の?」
「おそらく」
タカフミは作業場を起動すると、指を動かすことなく、マルガリータにチャットを送った。
「司星官とは?」
マルガリータは、左手のパネルで返信してくれた。授業中にこっそりスマホをいじる生徒のようだった。
「拠点惑星の総督」
「人がたくさん住んでる星には、司星庁」
「そこの偉い人です、司星官は」
「ルクトゥスですか。ナハトからもその名を聞きました」
ツェレル、話しながら挙手。マクシミリアンは身振りで続きを促す。
「ナハトは、脳にインプラントを埋められていました。
位置は脳の高次中枢。処理能力と記憶力の強化です。
ただ、それだけでなく、毒薬が仕込まれていました。
命令違反を検出したら殺害するためでしょう。
毒薬は除去しました」
「手術を強制されたのか?」
「司星官ルクトゥスに、手術を持ち掛けられたと言ってます」
「では、ルクトゥスに
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