第七章:星系に至る道
第7-0話:回想
配属されたばかりの若い士官が、物資の積込みの様子を見回っていると、同僚が声をかけた。
「おい、なんか偉い人が呼んでるぜ」
「え、そうか?」
腕輪を見るが、何も表示されていない。
「違う。向こうにいるんだ」
「直接会いに来たのか」
不思議に思いながら、指差された場所に向かう。
格納庫の一角に、見慣れない人物が立っていた。
スラックスではなく、腰から下に長い布を巻いていた。
布の隙間から素足が見える。育成師団では見たことがない服装だ。
それ以上に異様だったのが、髪だった。
黒い髪が、肩下まで流れている。
同期は全員、判で押したようなベリーショートのみ。
教官は一房だけ伸ばしていたが、首までの長さ。
生まれた初めて目の当たりにした長髪だった。
率直な感想は「うわ、邪魔そうだな」だった。
洗うのも大変そうだ。
自分が将来、戒めの長髪を科されるとは、夢にも思わなかった。
「呼び立ててすまないな、マリウス。
私の名はルクトゥス。ここアナクレオン星系の、司星官だ」
ルクトゥスは、ふわりと微笑んだ。
「何の御用でしょうか?」
腕輪で伝えてくれればいいのに、という疑問は飲み込む。
「一つ、頼みたいことがあってね。
ファルサングで、敵兵を捕まえたら、
私のもとに、送って欲しいんだ」
予想外の依頼に、マリウスは面食らった。表情には出ない。
「逃がすんですか?」
「そんなことはしない。
彼らの運命は変わらない。
ただ・・・帝国により役に立つ形で、使おうと思ってね」
沈黙の後、マリウスは答えた。
「わたしが受けた命令は、殲滅です。
その依頼は、お受けできません」
その答えを聞いても、ルクトゥスの表情は何も変わらなかった。
「そうか、残念だ」
それだけ言った。
2人の間に、再び沈黙が流れた。
次にルクトゥスは、ぐぃと前に進むと、マリウスに顔を寄せた。
耳許で囁く。
「ひとつ、忠告させてくれ。
殺し過ぎるな。狂うぞ」
「狂う!? そんなことはありません!」
気色ばんで応える・・・ことは出来ないが、語調を強めて言い返した。
「いいや、狂うさ。
そして、君たちが、思う存分に戦える場は、年々、少なくなっている。
仕事に飽いたら、いつでも司星庁を訪れるがいい」
それだけ言うと、返事も待たずに、立ち去ってしまった。
"表情が乏しい人だな。会話しにくい"
自分のことは100%棚に上げて、そんな感想を抱いたのだが。
その後の、激戦の日々に、そんな瑣末な感想は吹き飛ばされ、
ルクトゥスを思い出すことはなかった。
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