第8-6話:反射光
コアが停止すると、ヤヴンハールは急速に、アナクレオンの管区を掌握した。
MIは多数のデータセンターに分散しているが、そこで動くのは、予め設定されたプログラムでしかない。
妨害がなくなると、大半のプログラムは、中央政府権限を持つヤヴンハールに、
稀に抵抗するプログラムも、3つの行政MIの膨大な処理能力を投入して、圧倒していく。
3時間後には、交通局MIが稼働を始めるなど、星系の行政はほぼ平時の状態に戻った。
「もうすぐ一件落着ですかね~」
行政サービスの稼働状況を眺めながら、マルガリータはマリウスに声をかけた。
「・・・」
マリウスは、肘をついて、右頬を触っていた。
「どうしたの? 浮かない顔をして」
顔はいつもの無表情。長い付き合いで、仕草から分かるのである。
マリウスは、ルクトゥスの姿を思い浮かべていた。
7年前、不可解な依頼をしてきた時の姿。
今回の、機械のように変貌した姿。
「あんな、長い髪の人が、簡単にあきらめるだろうか」
「ちょっと、不吉なことを言わないで」
マルガリータは顔をひきつらせた。
長髪のヤバい人に何人も会っている身としては、冗談ですまされない。
安易な言霊化は、やめてほしいと思った。
「司令、ヤヴンハールから通話です」
エスリリスが告げた。司星庁ではいきなり話しかけてきたが、今は普通の手順で通話してきたのだ。マリウスが応諾すると、音声のみで通話が確立した。
「何かあったのか?」
「惑星アナクレオン2を隅から隅まで眺めてるのだが。
司星官ルクトゥスがいない。
勅令を受け取った後の行動ログが、一切ない。削除されている」
「どこかに潜伏しているんだろう。
必要物資を備蓄した場所で、通信を遮断されたら、探知は困難だ」
とはいえ、いずれは見つかる。
そんな、先の見えない逃げ方をするだろうか、ルクトゥスは。
マリウスは、その点が、腑に落ちず、すっきりしなかった。
「ルクトゥスの行方に関連して、駅から情報がある。
コカーレン、説明してくれ」
駅MIのコカーレンが呼び出された。
「アナクレオン2から、司星庁の宇宙船が発進。星系外縁に向かっています」
「ワープは出来るのか?」
「いえ。そんな大型船じゃありません。
わたしの管制を無視しています。乗員名簿も提出してくれません」
「ルクトゥスが乗っていそうだな」
再びヤヴンハール。
「ルクトゥスに話を聞きたい。アナクレオン変調の、重要な参考人だ。
追いかけて、捕まえてほしい。もちろん、生きて話せる状態で、だ」
「わかった。そうしよう」
それからステファンを見る。
「そんな船で逃げて、どうしたいのだろう?」
ステファンは肩をすくめた。
「あてがあるんだろうね。何か、は分からないが・・・」
「聞くしかないか。追いかけよう。エスリリスを動かしてくれ」
ステファンが進路を定めようとすると、エスリリスが声を上げた。
「警告。駅の管制領域外で、太陽(恒星)の反射光を検出しました。
人工物、おそらく船です。7隻以上います」
「船、だと?
いったい、何分前の光なんだ?」
「6au(天文単位)離れています。おおよそ50分前の光です」
「ルクトゥスの船の行先は?」
「この不明船団に、向かっています」
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