第32話
「そういえば、昇さんの荷物も、今日届く予定だったよね。こんな雨で、大丈夫かな」
職員に問われて、昇は、さあ、と苦笑いする。
「そんなに急ぎのものじゃないですし、明日でも明後日でも問題ないですけど…」
まあ、早いに越したことはないよなと、嵐士は頭の中で付け加える。昇の荷物の中身が何なのかは知らないが、例えば通信販売で注文したゲーム機か何かだったら、早く遊びたいだろうし、1日でも早く届いてほしいに決まっている。
――俺も、一時保護の施設にいたとき、職員を通して注文した服がなかなか届かなくって、やきもきしたことがあったな。
一時保護所にいたころ、嵐士は家から着てきたボロボロの服しか持っていなかった。いくら施設に貸し出し用の服があるとはいえ、自前の着替えがないのは不便だということで、早速替えの衣類を通販で何組か買い足してもらうことになったのだが、1週間たっても2週間たっても届かない。おかしいと思った担当職員が確認すると、何かの手違いで、注文の手続きが最後までできていなかった。結局そのあと、担当職員が慌てて再注文して、3日後くらいには届いたのだけど、どうして実店舗のある近所の店ではなく、通販の利用にこだわったのだろうと嵐士は不思議に思ったのだった。
――昇さんのものは、無事に届くといいけど。注文に不手際がなくても、この雨だからな。1日2日の遅れは当たり前か。
そう思っていたら、昼の11時ごろにはインターホンのチャイムが鳴って、それらしき荷物が届いたので驚く。
昇の昼食づくりを手伝って、サラダに使う野菜を切っていた嵐士は、「プライバシーの侵害」になるとわかっていながらも、作業の手を止め、荷物を確認している昇と職員のもとに向かった。昇という無口な同居人が一体何を買ったのか(あるいはもらったのか)どうしても知りたくなってしまったのだ。
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