第20話

 嵐士の受け入れ先は、予め職員から伝えられていた通り、一時避難所となる最初の施設に保護されてから、2か月ほどで決定した。体の傷が治り、保護から1週間半ほどで病棟から生活棟に移されていた嵐士は、他の子どもたちと同様、施設で配られる教材を使って自習したり、遊戯室で軽い運動をしたりして過ごしていた。保護期間中は家族による連れ去りなどのトラブルを防ぐため、外には出られず、また娯楽も勉強部屋の児童書くらいしかなかったので、移動が決まった時には、嵐士は将来の不安を忘れて、内心小躍りしていた。それだけ、施設での生活が退屈だったのである。 


――まったく、何が楽しくて、こんな規則でがんじがらめの、狭苦しいところに、2か月も閉じ込められなくてはいけないんだ。


 嵐士は自分の過去の不運を嘆くと同時に、そこから解放された喜びを静かにかみしめていた。しかし、2か月で行き先が決まった自分はまだ恵まれている方なのだろうとも思う。職員の話によれば、正式な受け入れ先が2か月以内に決まらず、結局1年以上ここに残る子どももかなりの割合で存在するようだった。


 それを聞いたこともあり、これから行く先が、自分にとって理想の住処になるかはわからないが、せっかく外出のできる、比較的自由な環境に移してもらうからには、少しはいい子にしてやろうじゃないかと、嵐士は意気込むのであった。

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