第19話

 翌朝、窓から差し込む青い光と、外から聞こえる鳥の声で、嵐士は新しい1日の訪れを知った。しかし、彼が運び込まれてきたこの部屋には、換気扇があるばかりで、明かり取りのための窓なんて、存在しただろうか。寝ているうちにまた別の部屋に移されたということは考えにくいし、一晩限りの突貫工事で窓が完成したというのは、さらに非現実的だ。第一、俺は、昨晩夢から覚めた後は、少しも眠れなかったというのに。いや、でも、その前は少し眠っていたわけだから…。


 そこまで考えた後で、嵐士はこの問題について思いを巡らせるのを止めた。近頃、というかいわゆる思春期といわれる年頃になってから、時々記憶のつながりのおかしいことが、何度かあった。


 校舎裏で同級生と取っ組み合いのけんかをしていたと思ったら、いつの間にか場面が飛んで隣の町のゲームセンターを1人でうろついていたり、気が付けば「古くからの友人」だという見知らぬ相手と、入ったこともない見知らぬアパートの一室で、テーブルを囲んで談笑していたりと、途中の記憶が、丸ごと1時間から3時間ほど、すっぽり抜けているのだ。


 記憶力のピークは思春期年代だから、今のうちにしっかり勉強しておくようにと、中学の1年時の担任が言っていたのを思い出したが、もっと小さい子ども時代か、20代半ばの若い大人になってからの間違いではないだろうかと嵐士は思った。少なくとも、自分に関して言えば、10代の思春期といわれる年齢に入ってから、どんどん記憶があやふやになってきている。大人になって、ここからさらに記憶力が落ちたら、自分はきちんと生活していけるのだろうか。嵐士は不安でならなかった。


 

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