第22話

 翌朝は、午前10時と、やや遅めの出発だった。施設が持っている4、5人乗りの小さな車を運転しながら、職員が前方を指さす。右手には青い海が見えた。


「あの、とんがり屋根の教会みたいなところが、来年の4月から嵐士君の入る施設で、あっちの白くて四角いのが中学校」


 運転席の職員の案内を後部座席で聞きながら、本当に全部近くに集まっているのだなと、嵐士は感心した。一時保護の施設がある都市部から、車でおよそ1時間半の、都会の喧騒から離れた、のどかな海辺の町に、嵐士の入居するグループホームはあった。人口1万人以下の小さな町の、おそらく徒歩20分の範囲内に、学校、児童養護施設、グループホーム、デイサービス、福祉作業所、病院と、先日名前の挙がったすべての施設が、お互いに集まって存在している。その途中にはスーパーや電気店、薬局などもあり、生活していくのにはそれほど苦労しなさそうだった。


 グループホームに着いたのは、12時過ぎと、ちょうどお昼の時間だった。予定だと11時半には到着するはずだったのだが、都市を出るあたりで一部道が混んでいたり、途中でトイレ休憩をはさんだりと、小さなハプニングが続いたため、到着が少し後ろにずれ込んだのである。そのことを引率の職員が詫びると、グループホームで待っていた受け入れ側の職員は、屈託のない笑顔で、気にしないでくださいと言う。


「道が混んでいて、車が遅れるのはよくあることですからね。せっかくなので、デイサービスにもご案内しましょうか。平日の昼ごはんは、ここの入居者さんも、ここではなく、向こうで食べるんですよ」


 嵐士と引率の職員は、出迎えの職員の案内で、デイサービスの食堂を訪れた。食堂に集まっていたのは、年齢の違う2、30人ほどの男女だった。嵐士とそれほど年が変わらないように見える、10代後半くらいの若い人から、70歳くらいと思われる高齢の人まで、年齢層は実にさまざまである。食事の時間が始まっているということもあり、多くの人は席に座って近くの人と談笑したり、ご飯を食べたりしていたが、中には着席せずに、ひたすら部屋の中をうろうろ歩き回っている人や、隅の方で丸くなって床にしゃがみ込んでいる人もいた。部屋の奥に置かれた配膳台で、遅れてきた人のためにご飯を盛りつけている眼鏡の男性の姿を見つけて、案内の職員が声をかける。


「池野さん、お疲れさま。君のところに新しく入る、国上嵐士君が来てくれたよ」


 池野さんと呼ばれた男性は、作業の手を止めてこちらに会釈する。


「池野昇です。国上さんの、ルームメイトならぬ、ハウスメイトです。よろしくお願いします」


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