第21話
施設長による、受け入れ先についての説明を聞いた後、嵐士は複雑な面持ちで面談室を後にした。彼の第2の受け入れ先は、児童養護施設のほか障害者福祉にも携わっている団体が運営元の、精神障害者向けのグループホームだった。
見せてもらった写真から判断すると、ホームの建物はごく普通の、2階建ての一軒家で、いわゆる「施設」という感じはしないものだった。入居者たちはこの「家」の中で、管理人の支援を受けながら、シェアハウスのような形で共同生活を送っているらしい。入居者の定員は3名だが、近頃1名が亡くなり、もう1名が病院での入院生活に切り替えた関係で、今は1人しか住んでいないと聞く。こちらの家は男性限定の「男性寮」だが、近くには、同じ法人が運営する系列の女性寮のほか、福祉作業所、デイサービスなど、入居者の自立に向けた日中活動の場があり、1つの集落のようなものを形成しているようだった。また、入居者の多くがお世話になっている精神科の病院もご近所だそうだ。
もともと嵐士が入る予定だった施設は、もちろん、グループホームではなく、児童養護施設の方だったのだが、最年長の児童1名が退所する年度末までは空きが出ないため、それまでは、同系列の精神障害者グループホームで待っていようか、ということになったようだ。
結局行った先も一時的な仮住まいで、しばらくしたらまた引っ越しかと思うと、嵐士は少し気が重くなったが、かと言ってずっとこの狭い一時保護所にいるのも窮屈で仕方がないと思ったので、余計な文句は言わず、上の決定に従うことにした。もっとも、これから住むところを決める際に、引っ越す本人の希望は一度も確認されることなく、部外者の意見だけで全て決められてしまうというのは、少し不自然な気がしないでもなかったが…。言うまでもなく、本日紹介のあったグループホームに住むのは、それを決めた職員ではなく、意思決定の場にはいなかった嵐士なのである。
――しかし、まさか精神疾患を持った大人たちと、一つ屋根の下で暮らすとはな。
予想だにしない展開に、嵐士は思わず天を仰いだ。
――まあ、俺の場合、親父を見て慣れているから、それこそあのくらい、殴る蹴るの大暴れでもしてこない限りは、まあ別に、そんなに怖いとは思わないけど。
せっかく拾ってもらった身なので、入所先の施設について色々と注文をつけるつもりはないけれど、同じ家に住む仲間は、なるべくならおとなしいタイプの人がいいなと思いながら、嵐士は翌朝の出発に向けて、のろのろと荷造りをするのであった。
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