第8話
静音の嫌な予感が膨れ上がる中、2人の歩く道は目的地の公園の前までたどり着いた。公園といっても、滑り台やブランコのある児童遊園ではなく、市民共有のちょっとした憩いの場だ。海に張り出したテラスの上に、木製の小さなバーベキュー用テーブルが3、4脚ほど置かれていて、傍らには車を4台ほど止められる小さな駐車場も併設されている。
普段なら、誰かしらがテラスの柵に身を乗り出すようにして、海を見ながら煙草なりコーヒーなりで一服しており、駐車場にも1台は車が止めてあるはずなのだが、この日は空模様が今一つだからだろうか、静音と昇のほかに人の姿は見当たらなかった。
「誰もいないね。2人きりなんて、デートみたい」
静音の冗談に昇は反応しない。テラスの上で立ち止まり、黙って海を眺めている。
「喉が渇いたね。そこに自販機あるから、ジュースか何か買ってこようか?」
沈黙に耐えかねた静音が飲み物の提案をして 初めて、じゃあ、コーラでも、とようやく反応らしい反応が返ってくる。静音は自分も同じものを飲もうかと思ったが、家から持ってきた麦茶があるのを思い出し、またそれほど喉も渇いていなかったので、迷った結果、昇のコーラだけ買って戻ってくる。
「はい、今日は私のおごり」
いや、そのくらいは自分で払うと言ってズボンのポケットから財布を取り出そうとする昇を片手で制し、静音はバーベキューテーブル前のベンチに腰掛ける。そのテーブルを挟んだ向かい側に、昇も遅れてのろのろと腰を下ろす。
「で、それで、用件は何? 何か話したいことがあるんだったよね。大丈夫。愚痴でも何でも聞くよ」
自分の正面に座った昇をまっすぐ見据え、静音は詰問口調にならないように注意しながら、なるべく明るい声を作って昇に問いかける。こんな時だからこそ、自分が話の主導権を握っていないと、不安に押しつぶされてどうにかなりそうだった。
「いや、だけど、私は…」
昇はまだ決心がつかないのかしばらく言葉を濁していたが、意を決したかのように、スマホを取り出し、いつものチャットの画面を開くと、何やら文字を入力し始めた。すぐに着信があり、静音のスマホが2回大きく震えた。
静音は恐る恐るチャットアプリを立ち上げる。届いたメッセージの内容は次のようなものだった。嫌な予感は的中した。
《結論から言います》
《私は柿沢さんのことが好きです。だからこそ、もう一緒には暮らせません》
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