第26話
翌朝、嵐士は職員の案内で福祉作業所を訪れていた。中学の2学期が始まるまでは、まだだいぶ日にちがあるので、暇を持て余すのももったいないし、それまでの間は作業所の仕事に参加してお小遣いを稼ごうと職員から提案されたのだ。
「基本、活動は任意で、好きなものをやればいいことになっているから、今日やってみて合わなかったら、無理に参加しなくてもいいんだよ」
作業所の、車いすの通れる広い廊下を歩きながら、職員が説明する。
「そろそろ働きたいって人は作業所に行って、就労の練習をするけど、そうじゃない人はデイサービスで音楽療法や園芸療法、運動療法なんかを受けて、作業の練習や、人と関わるためのリハビリをして、少しずつ体力もつけて…って感じかな。もちろん、どの日中活動施設にも行かず、グループホームや自宅で家事の練習をしたり、月に何回か病院のカウンセリングやグループワークに参加したりするだけにして、あとはのんびり過ごすって人もいる」
一口に心の病気を抱えている人と言っても、症状の内容や重篤さ、できることとやりたいことは人によって様々なのだと嵐士は思った。確かに、実際に試したわけではないが、元・肉体労働者の父と、お茶を淹れるなど日常のこまごまとしたことをするのが得意(だと思われる)昇とでは、だいぶ仕事の適性も違ってくるような気がした。
職員の説明が続く。
「ここの作業所の仕事は大きく分けて3つあってね。1つがダイレクトメールの封入や、書籍の梱包などを行う発送班、もう1つが仕出し弁当の調理や盛り付けをする調理班、最後が近くの公園のごみ拾いや草むしりだったり、アパートの共用部や駐輪場、駅なんかの掃除をしたりする清掃班。嵐士君には、まず、最初に言った発送班の仕事を体験してもらおうと思っている。割と簡単な作業で、初心者向けだし、昨日会った同世代の木ノ内さんなんかもいるし」
職員は「作業室1」と書かれた部屋の扉を開ける。入り口ドアのこじんまりした印象とは違い、思いのほか広いこの部屋には、木製のがっしりとした4人掛けのテーブルが8台ほど置かれ、奥の方には「でんのこ」など木工用の工作機械もあって、小学校の図工室を思わせるような雰囲気だった。その広い部屋の真ん中あたりのテーブルに、山盛りの書類と封筒を前にした木ノ内志保が1人ぽつんと座り、黙々と紙を折りたたんでは、細長い封筒の中に差し込んでいた。
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