第31話

「しかし、よく降るなあ」


 窓の外を見て、職員が呆れたように言う。


「午後からサチ江さんたちのバーベキューパーティーがあるのに、どうなるんだろう」


 嵐士は、窓ガラスに雨粒が銃弾のごとくぶつかるバラバラという音を、黙って聴いていた。わざわざ目で確認するまでもなく、外の世界は滝のような雨。サチ江たちの集まりは海辺で開催されるということだったから、このまま悪天候が続くなら、予定通り外で肉を焼くのは難しいだろう。一応自分も招待されているらしいので、どうか中止にならないでほしいなと嵐士は思った。焼き肉をタダで食べ放題なんて、そうそうある機会ではない。本当のゲリラ豪雨や通り雨なら、短時間で止んでくれるはず。まだあきらめるのは早すぎるだろう。


 ここで、スマホで天気予報を確認していた職員が不意にため息をつく。


「ああ、だめだ。午後も大雨注意の予報が出てる。ダメ押しで、美月さんからもLINEが来たし…。どれどれ、今日は無理そうなので、またの機会に…やっぱり中止みたいだな、これ」


 焼き肉がお預けとなり、嵐士はにわかに意気消沈した。自分の寝起きの妄想は妄想ではない。確かにこの世界は何かに呪われているのだ。明日すぐに滅亡するというレベルではなくとも。

 一方、昇は、せっかくてるてる坊主をつるしておいたのにねと、無邪気なものだった。


――あんた三十路にもなって、てるてる坊主のおまじないなんか信じるのかよ。


 昇の、子どもを思わせるような、無邪気なふるまいが何となく気に入らなかった嵐士は、心の中で毒づいた。とはいえ、大人は大体年齢不詳なので、実際に昇が30歳なのかどうかはわからなかった。もしかしたらもっと若いかもしれないし、あるいはびっくりするほど年配なのかもしれないが、そんなことはどうでもいいとして、お腹が落ち着いたら、さっさと眠ってしまいたいと嵐士は思った。今日は休日で、福祉作業所の、発送班の仕事もないし、何より雨の降っている日は、起きたそばから眠たくなるのだ。

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