第41話 結局私はヒロインにはなれなかった【残酷描写有り】
小さい頃から両親から愛されて育ってきた私は、当然童話の中のプリンセスのようになれると信じていた。
でも実際の私は脇役の恨めしそうにヒロインを見つめる村人A。私が必死に分岐を選んだことろで、愛する人は振り向いてくれなかったのだ。
「赤江には感謝してるんだよ? だって千華ったら社会人になるまでお預けとか言うしさー。まぁ、そんなところも可愛いんだけどな」
身体を許さなくても愛されている千華さん。
全てを捧げても蔑ろにされる私。
でも、この子は……お腹の子だけは
込み上がる感情は愛憎、絶望、そして哀しみ。いっそのこと春樹さんから離れて、この子と二人きりで生きていこうか。
(事情を話せばお父様もお母様も納得してくれるわよね? だって私の子ですもの。大丈夫……私はそれだけでも生きていける)
愛しそうにお腹を摩っていると、何かを察したかのように春樹が背後から抱き締めてきた。
ぞくりと寒気が背中をなぞった。
ふっ……と溢れた笑みに身体が強張った。
「赤江、まさか生もうなんて思ってないよね? さっき俺が言ったこと、覚えてる? お前が産んだら、将来俺の子に迷惑かかるかもしれないじゃん? 認知をするとかしないとか、そういうのじゃないんだって。分かる?」
この人は、お腹の中の子供のことなんて、これっぽちも可愛く思えないんだ。
顔の筋肉が痙攣して、自分がどんな顔をしているのか分からなくなった。
「絶対に春樹さんには迷惑をかけないから……ねぇ、お願い。私は産みたい」
縋るように懇願を続ける私を、春樹さんは汚物を見るように蔑んで見下してきた。
けど、小さなため息と共に私の肩を叩いて、そっと抱き締めてきた。
「赤江、俺のことを愛してるんでしょ? それなら堕して? 君が俺のいうことを聞いてくれるなら、今度こそ君のことを大事にするから」
大事に……? それって私のことを愛してくれるってこと?
「大事にする。今まで以上に赤江のことを抱き締めるし、気持ちいいことだって沢山してあげる。でもお腹の中に赤ちゃんがいたら、そんなこともできないだろう? だから俺を愛しているなら赤ちゃんのことを諦めてくれるかな?」
私の大好きな春樹さんの顔で、彼は甘ったるい中毒性に満ちた言葉を吐き出す。
「俺達はまだ高校生なんだ。楽しいことも沢山あるし、わざわざ自ら茨の道を歩く必要はないよ。ねぇ?」
「でも、私は」
「そっか、赤江は俺のことなんてどうでもいいんだ。他人に後ろ指差されて、悪口を言われていても何とも思わないんだ」
「違う、私はただ!」
「違わないだろう? だって君は——俺よりも赤ちゃんを選ぶんだから。俺がどんな思いをしてもどうでもいいんだ」
違う、違う……何でそんなことを言うの?
私はただ、千華さんに勝ちたかっただけ。彼女から春樹さんを奪いたかっただけなのに。
それから数日間、私は春樹さんに説得され続け、赤ちゃんを堕すことにした。
多額の費用、身体への負担。
中絶を待っている最中、別室から聞こえる赤ん坊の声を聞いて、無性に涙が溢れてきた。
産みたかった。何が何でも産みたかった。
春樹さんの子供だからとか、そういうのも関係なしに、授かった命を守りたかった。
「ごめんね、ごめんね……私のせいで。私が、あなたのことを利用としたせいで」
謝っても謝っても、消えることのない罪悪感。
それからしばらくして、麻酔が効いて
お腹の中にいる時は、あんなに哀しみや罪悪感でいっぱいだったのに、ぽっかり空洞ができたかのように物の抜け殻になった。
何もかもどうでもいい。だけどその空洞に入り込むかのように、春樹さんは私をたらし込んだ。
今までに味わったことがないくらい、頭のてっぺんから爪先まで愛で倒してくれた。
コレで良かったんだ。コレが正しかったんだ……私は現実から目を背けるかのように春樹さんを愛し続けた。だってお腹の子供を殺してまで、私は春樹さんを選んだんだから——縋るしかないじゃない。
でないと、何の為に諦めたのか分からない。
だけど、そんな私を絶望の淵に突き落とすかのような出来事が待っていた。
私の妊娠をきっかけに、千華さんが春樹さんと別れたのだ。
当たり前と言えば当たり前だけれども、離れないと自信があった春樹さんは、人が変わったかのように八つ当たりを始めた。
「赤江、お前のせいで千華はいなくなったんだ。責任を持って元に戻せよ?」
感情がおかしくなる。私はもう離れたいのに、離れたくない。放って欲しいのに愛されたい。
全部、全部、ぐちゃくちゃだ——……。
———……★
「こんな男に惚れたのが運の尽き」
千華も一歩間違えれば赤江になっていたのかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます