第6話 気にしないようにと思っても、やっぱり無理
家に帰ってきてからお風呂を溜めたり、色々としたが——……どうしても気になって仕方なかった。
(だって、こんな時間に電話をかけてくるって普通じゃありえないだろう?)
浮気——……?
いやいや、千華さんの性格上、嘘がつけるタイプだとは思えない。もし気になる人が出てきたら、速攻で別れを告げてくるだろう(それはそれで嫌だが)
そうなると、考えられるのは千華さんのことを狙っているストーカー? もしくは元カレ。
「——アイツか。アイツがまた接触を計っているのか?」
千華さんの幼馴染でありながら、身体の関係を迫り続けてきた男、
絶縁を言い渡したにも関わらず、未練たっぷりで接触を測ってきたことがあったと相談されたことがあった。
俺はそいつが犯人なのではと狙っている。
「それにしても、千華さんをキープしつつ他の女の人と付き合うなんて、クズの極みなんだよ」
そんな悪い男がいるから、世の中は不公平で犯罪や戦争が絶えないのだ。浮気クソ野郎がいなくなれば、それだけで世界は平和になれる——気がする。
まぁ、それは大袈裟だしあり得ないことだけれども、なぜ悪い男に限ってモテるのだろう?
永吉先輩もそうだ。
寝取るような男と結婚するなんて、
いや、似たもの同士でくっついてくれた方が世の為、人の為か。
「崇さん、お風呂が沸いたけど先に入る?」
先にメイクを落とした千華さんが、ヒョイっと洗面所から顔を出した。
スッピンでも可愛い……。
こんなに可愛かったら、そりゃ未練もタラタラになるだろう。
「俺、ビール開けちゃったから先に入っていいよ。酔いが覚めてから入るよ」
「分かったー。崇さんも飲みすぎないように気をつけてね」
トテトテと駆けていく後ろ姿に見惚れつつ、やっぱり不安が込み上がる。
もし、俺がいない間に襲われでもしたらどうしよう?
「——あの電話、俺が出て犯人を突き止めればよかった。とりあえず監視カメラを設置して、GPSアプリも入れてもらって、万が一に備えなければ」
過保護と思われるかもしれないが、悲しいことに千華さんは人より少し抜けていて、危機管理能力が乏しい。
もし道端で蹲っている老人がいたら、何の疑いもなく声をかけるお人好しだし、自宅まで付き添って欲しいと頼まれたら了承してしまう危うさも備わったポンコツちゃんなのだ。
そこが彼女の優しさであり長所でもあるのだが、彼氏としては不安で不安で仕方ない。
「くそ! 俺の身体が二つあれば、千華さんのそばにいてピンチに備えるのに!」
頭を抱えて嘆いていると、衣服を脱ぎ捨ててタオル一枚になった千華さんが再び様子を伺うように顔を出してきた。
「な、何? どうした、千華さん」
彼女は軽く目を泳がせて、口を一文字にして悩むように見つけてきた。
「……うん、あのね。せっかくなら一緒にお風呂入らないかなーって思って。お誘いだったんだけど、もしかして忙しい?」
い、一緒に風呂だと?
あまりにも魅力的なお誘いに、悩んでいた問題が全部吹き飛んでしまった。
乳の上で抑えたタオルの結び目もいい具合に緩くて最高だし、お風呂でのイチャイチャを考えただけで興奮が込み上がる。
いや、だが……少しは自重したい。
千華さん絡みになると、つい歯止めが効かなくなる。
それに今は非通知の犯人に対抗する術を考えるのが最優先だ。一緒にお風呂なんか入ったら、思考能力が低下するのが目に見えている。
「ま、またの機会にするよ。せっかく誘ってくれたのに申し訳ない」
「ううん、いいよ大丈夫。その代わり、後でギュッとさせてね」
いくらでも抱き締める……!
本当、世の中の男共は。
こんな可愛い子を放っておくなんて勿体ない。
特に元カレ春樹さんに関してはアホの極みと言っても過言ではないだろう。
「……とりあえず、千華さんには用心してもらうように伝えておかないとな」
残り僅かとなった缶ビールをグイッと飲み干して、俺はソファーに背もたれて横たわった。
———……★
「——やっぱり今からでも一緒にお風呂に。いやいや、自重自重……」
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