第5話 不穏な非通知
「ねぇ、崇さん。元カノさんの結婚式に参加するの?」
慎司さんとの食事会を終えた後、不安な表情を浮かべながら聞いてきた千華さん。
繋いでいた手が僅かに震えているのは気のせいではないだろう。
そりゃ、彼女からしてみれば元カノの結婚式に参加するなんて、心外以外の何物でもないはずだ。逆の立場なら行かないで欲しい。
「しないよ。そもそも元カノ達にご祝儀を包むくらいなら、千華さんと美味しいものを食べた方が何倍も有意義だ」
慎司さん経由とはいえ、よく招待状を出せたものだと呆れ返って言葉を失くしたほどだ。
確かに慎司さんの言い分も分からなくもない。見返してやりたい気持ちもあるが、同僚の彼女を寝取るような人間だ。そんな輩に関わりたくないという気持ちの方が強い。
「……良かった。崇さんのことを疑うわけじゃないんだけど、やっぱり元カノと会うのは心配だったから」
安堵したように肩の力を抜いて綻ぶような笑みを浮かべた彼女のことが、この上なく愛しくて堪らなかった。
実際、千華さんが心配するようなことは万が一も存在しないというのに。
「実際に見てもらえば分かると思うけど、千華さんの方が何倍も可愛いし、オシャレだし。何よりも大事で傷つけたくないから、絶対に裏切らないよ」
「え、でも……崇さんから寝取るほど魅力的な人だったんじゃないの?」
いや、千華さんもご存知の通り、千華さんと付き合う前の俺はかなりダサかったし、隠キャの極みだったから。紹介してくれた女の子も似たり寄ったりのレベルだ。
今思えば、永吉先輩は回りに威厳を示す為に後輩の俺に彼女を紹介して寝取ったのだろう。
そう、きっと初めから仕組まれていたことだったのだ。
「俺は元カノが寝取られても仕方なかったと思ったし、その後抗議すらしなかった。簡単に寝返った元カノに未練も何も感じなかったんだ。結局、その程度の存在だったんだから気にしなくてもいいよ」
だけどもし、寝取られたのが千華さんだったら、何が何でも縋っただろう。
一度や二度の浮気くらい水で流せるほど、彼女に夢中になって仕方がないのが現状だ。
「——きっと元カノさんも、崇さんを良さに気付いていたら後悔したかもね。私はね……見た目よりも優しくて面倒見のいい崇さんに惹かれたんだよ」
彼女の指先に力が込められた。
分かっている。そう、彼女は見た目が変わる前から俺に好意を寄せてくれていたのだ。
ポテンシャルを見抜いていたのかもしれないが、それでも嬉しかった。
だから今の見た目になってから寄ってくる女性なんかよりも、ずっと大事で愛しく思う。
だがその反面、愛想を尽かされたくないから、必死に見た目にも気を使うようになった(と言っても、千華さんの言うとおりにしているだけだけれども)
もう少しでアパートに着く、そんな頃合いに彼女のスマホが突然鳴り出し驚いた。時刻はもう深夜の十時を回っている。
何て常識のない奴だろうと思ったが、画面を見て、千華さん表情に暗雲が漂った。
「——非通知だ。誰だろう」
不穏な空気が重くのしかかる。
心配そうに眉を顰める彼女を慰めるように、俺は強く手を握り返した。
確かに不穏だ。怖い、といより気持ちが悪い。だが、俺まで顔に出したら彼女が不安になってしまうだろう。
「大丈夫だよ。何かあったら何でも相談して。俺が千華さんを守るから」
そんな言葉に返すように、彼女は柔らかく笑みを浮かべて「ありがとう」とはにかんだ。
———……★
「けど、これがラブコメの宿命か……」
メタ発言、やめてくれ(笑)
5月15日付け、★ありがとうございます!
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