第43話 あとは春樹さんに委ねます

 赤江視点……★


 正直、春樹さんと別れた後の千華さんを目の当たりにして、複雑な思いになったのは否めなかった。


 私はあんなにも略奪することに執着していたのに、千華さんはあっさりと彼女の権利を放棄して、他の人と幸せになっていたのだ。


 しかもとても満たされて、愛されて。


 それに比べて、手に入れたはずの私は春樹さんの重圧に潰されそうになって……女としての幸せって何なのだろうって考えさせられていた。


 私は——選択を誤ったのだろうか?

 でも今更、お腹の赤ちゃんを諦めたのに………他の未来なんて選びたくなかった。


 ———……★


「春樹さんと話がしたい?」


 思いがけない提案に言葉を続けることができなかったが、この流れは私にとって好機でもあった。

 何の進展も得られなかったことについて責められていたけれど、接点さえ設ければ後は春樹さんがどうにかしてくれると思う。


 元サヤに収まってくれれば、春樹さんの気性も落ち着き平和に過ごせるはずだ。認めるのは歯痒いが、やっぱり千華さんがいないと春樹さんを宥めることが出来ないのだ。


(多くを望まなければ、自分の立場を弁えれば、私は幸せになれるのだから)


 だけど——前ほど春樹さんに抱かれたいと思わなくなった。


 目を瞑った時に思い浮かぶのは、どうなっていただろうと思う子供の姿。会いたかった、可愛い我が子の姿。

 お腹を摩れば、あの時の幸福感が鮮明に蘇る。


『ただ、条件があるの。私の主人も一緒に同席することと、回りに人がいる状況……例えばファミレスとかで話させて欲しいの』

「——分かったわ。その条件を飲んであげますわ」


 所詮、春樹さんの言いなりになっていた千華さんと、女の私にすら敵わなかった男。きっと千華さんも春樹さんに会えば思い出すはずだ。

 私が手にしたかった未来も、そう遠くないはずだ。


 ———……★


「へぇ、千華と会う約束まで漕ぎ着けたんだ。赤江、やるじゃん!」


 先程の提案を春樹さんに話したところ、久々に声を弾ませて褒めてくれた。大きな手のひらでワシャワシャと頭を撫でられて、蔑んでいた心が愛で満たされていくのを感じていた。


「ただ、千華さんのお相手も一緒らしいんですが……」

「それは全然構わないよ。むしろ旦那と比較することで俺の良さを再認識してもらいやすくなるだろうし。あぁー、千華もどんな感じになっているんだろうなー」


 春樹さんは自分が一番千華さんに相応しいと確固たる自信を持っているようだ。だけど相手を知っている私は、少しモヤっと疑問が湧いた。

 確かにどこか頼りないひ弱な男性だったが、その代わり真っ直ぐな偽りのない人だった気がする。

 多少だけれども羨ましくも感じる点では、誠実な人と言うべきなのだろうか。


「それじゃ、良さそうな場所を見繕ってよ。赤江、感謝してるよ」


 そう言って私の腰を抱き寄せて、唇を塞ぐように覆った。甘ったるいとろけるような快感が身体中に駆け巡る。


「んン……っ、春樹さン」


 うっとりした眼差しで続きをねだる私に対して、彼は別のことを考えていた。


「早く千華の目を覚ましてあげたいな」


 束の間の夢のように、一気に熱が冷めていった。

 そうなんだ。私がこの状況に身を置き続ける限り、この感情と付き合い続けなければならないのだ。


 沸々と込み上がる怒りと寂しさと、孤独感と。

 満たされることのない愛に対する絶望と。


 でも、この男から解放されるのなら、それでもいいと思ってしまう自分もいる。


 春樹さんは私には荷が重い。こんな人に束縛されて平気なのは、きっと一番に愛されている千華さん以外に考えられないのだ。


「どうか、全てが円満に終わりますように」


 神様、他に多くを望まないので、一度くらいは私の願いを叶えてください。


 ———……★


「きっと次が終止符を打つ時。私たちの未来が決まる瞬間だ」



……まだ対面が果たされなかったけれど、うん、次……! 次はバトルですw

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