第二章　春樹・赤江……無自覚寝取りマウント編

　それからというもの俺達の回りは平和そのもので、その日も食事もお風呂を済ませてソファーの上でダラダラとまったりとした時間を過ごしていた。

　俺は漫画を読んで、千華さんはスマホで音楽を聴きながら次々に画面をスワイプして変えていた。

　細かく書き込まれた絵と張り巡らされた沢山の伏線に魅入っていた俺にもたれかかって、わざとらしグググっと体重を預けてきた。それこそ触れた場所から千華さんの体温が伝わってソワソワしていたが、次第に重さが増して面倒さが勝ってきた。

——重い！　いつまで乗ってるんだ！

「千華さん、何してん？」

「えへへー、やっとこっち見た。崇さん、遊ぼ？」

　遊ぼうだぁ？

　子供のような笑みを浮かべて、いたずらに笑う彼女につられて俺まで笑ってしまった。

　仕方ないな。こんな可愛い彼女にねだられたら拒めないじゃないか。

「何がしたいん？　ゲーム？」

　手先が器用な千華さんだが、ゲームの腕前だけは俺に軍杯が上がっている。珍しく千華さんに良いところが見せられる特技なのだが、彼女の思惑から外れていたようで、プクゥーっと頬を膨らまされてしまった。

　薄らと桃色に色付いた唇を尖らせてから、僅かに唇を開けた。魅惑の舌がぺろりと覗き見える。

「ズルい、崇さん。それ、本気で言ってる？」

　両腕で胸の谷間を主張して、じわりじわりと距離を縮めて。猫のように甘えて唇を重ねてきた。

　絡む腕、密着する肌、上目に覗きこむ大きな瞳。

　蠢く舌がねっとりと絡みつく。とろけるような官能に溺れようと目を閉じ始めた時だった。

　ブルルルルー……ブルルルルルー……

　ビクっと大きく震えた肩。着信したのは千華さんのスマホだった。久しい出来事に嫌な沈黙が漂った。

　時計の時刻は二十二時前、そこそこに迷惑と感じる時間だ。誰だ、こんな時間に電話をしてくる非常識な人間は？

　彼女のスマホ画面を見ると、そこには非通知の文字。

　これは、この前の非通知と同じ人間か？

「——ごめん、崇さん。多分これは……」

　せっかくの甘ったるい空気は消え去って、距離ができたまま離れていってしまった。

　いや、それは仕方ないのだが、問題は千華さんの表情だ。

　モヤっと、燻（くすぶ）った感情が広がっていく。

　奴か？　あのパン屋の、イケメンだけど他の女性を孕ませた屑元カレか？

　最低な奴と蔑んでいながらも、どこか突き放しきれない千華さんは、どうしようと頭を悩ませながら唸っていた。

　あぁ、俺も中途半端に相手が想像できるようになってしまったから被害妄想が広がっていく。

　こんなことを言っても仕方ないというのに——！

「千華さん、やっぱその電話って」

　しばらくして千華さんはくしゃっと顔を歪ませながら、申し訳ないように「多分、春樹。もしくは赤江さんかな？」と謝ってきた。

　千華さんは何も悪くない。

　彼女の意思とは無関係に連絡を受けて、むしろ被害者だ。だが、そう言いながら鳴り続けるスマホを第しまうに持っていることに悔しさを覚え、俺はそのまま腕を掴んで引き寄せてしまった。

　そして改めて唇を塞いでソファーに押し倒した。

「崇さん……？　待って、ちょっと」

「千華さんは、俺と元カレ、どっちが好き？」

「え？」

　最早、わかりきった答えだというのに、試すような質問を突きつけて、我ながら子供だなと呆れてしまう。

　俺の両腕に挟まれて真っ直ぐに見つめられた千華さんは、顔を紅潮させながら戸惑いつつも「……馬鹿」と小さく呟いて、グッと顎を上げてキスを交わしてきた。

「私は崇さんの彼女だよ？　崇さんしか好きじゃないよ」

　その言葉に小さく安堵の息を吐いて、先ほどの続きを再開した。

　——だから俺達は気付いていなかった。

　抱き寄せていた瞬間、押されてしまったボタン。始まっていた通話。

『千華、ごめん！　俺が悪かったんだ。頼むから一度、話をさせてもらえないかな？』

　届くことのない懇願を続ける声の隣で、甘美なひと時を過ごす俺達。

　ハッキリと音は捉えなかったとはいえ、きっと普通じゃない状況は伝わっていたと思う。

『嘘だろう……？　千華が、千華が他の男に寝取られたのか⁉︎』

　こうして俺と千華さんと、元カレたちとの波乱の日常は始まったのだ。

　———……★

「え、嘘？　立場逆転？　今度は俺が寝取り側？」

　いやいや、これは寝取りじゃない——……正規ルートの純愛です！

　浮気をして別れておきながら、寝取られた何て抜かすな元カレ！

　すいません、３日分ほど……

　皆様、★ありがとうございます！

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　そして素敵なレビューありがとうございました✨（でも削除されてる？　うぅ……かなり残念💦）