第16話 千華の反撃【小ざまぁ】

 永吉先輩達の結婚式まで一ヶ月。

 現時点では結婚式の中止の連絡は来ていないのだけれども、あの二人は無事に挙式を行うのだろうか?


「結婚って、もっと神聖なものなはずなのに。永吉先輩もよくあんな婚約破棄を宣言するような女と一緒になれるよな」


 浮気ばかりするような人と結婚しても不倫されそうで恐くなるが、自分に限って浮気なんてされないから大丈夫だと、たかを括っているのだろうか?


 何にせよしっかり手綱は引いていてほしい。

 俺のところに来られても迷惑でしかない。


「ねぇ、崇さん。今日は久々にデートしない? 美味しいパスタ屋さんを見つけたの」

「行く! ここ最近、先輩達のことばかりでゆっくりしてなかったもんな」


 正直、永吉先輩達への復讐なんかよりも千華さんと一緒に愛を育みたいのだ。もっと楽しいことをしたいのだ!


「羽織ちゃんのおかげで、だいぶ情報も集まったもんね。陰でコソコソ話されていたグループチャットの内容を結婚式で公開するんでしょ?」

「うん、とりあえずね。その点に関しては慎司さんと透子さんが段取りを組んでくれるらしいから、任せることにしたよ」


 そして俺は千華さんと一緒に披露宴に参加して、仲睦まじい様子を二人に見せつけるのだ。そして雪世にも入り込む隙間がないことをアピールするしかない。


「挙式の日まで、無事に破局しないでいて欲しいね」

「結婚まで約束した男女に向ける言葉じゃないんだけどね、それ」


 久々のデートに浮かれながら、俺達は家の戸締りをして駐車場へと向かった。

 千華さんはタイトな黒いワンピースに赤いカーディガンを纏って大人っぽい雰囲気だった。

 こんなに可愛くて綺麗な人が自分の彼女だなんて、何度見ても夢のようだと頬をつねってしまう。


「車で行っても大丈夫なの? 崇さんはお酒飲まないの?」

「うん、千華さんが飲めるようになるまで俺も控えようかなって思って。俺だけ飲んでもつまらないし」


 運転席に乗り込んで、ドアを閉めた。そしてシートベルトを締めて、エンジンをかけようとブレーキを踏んだ瞬間——……!


『バンバンバン!』


 ドアの窓を激しく叩く音が響く。あまりの衝撃に車体が激しく揺れるほどだ。


「な、何だ! 誰だ⁉︎」


 怖がって震える千華さんを守るように庇って発生源に視線を向けると、そこには恐ろしい形相で睨みつける女性が立っていた。


 一心不乱に振り回していたのか、乱れた髪が顔に掛かって、まるで幽霊のような佇まいに、ただただ固まるしか術がなかった。


「たーなーかーくぅーん……、私という人がいながら、酷いじゃない! 私、あの日からずっと連絡を待っていたのに!」

「その声は雪世⁉︎」


 あまりの恐怖に足がすくみ上がる。

 そもそも何故、俺が悪いことになっているのだ? 俺が雪世に連絡する義務はない!


 ギロリと睨みつける目が血走っている。まるでメデューサのような怨念のこもった睨みつけに、身体が強張ってそのまま石化しそうだ。


「……あなたが雪世さんですか?」

「アァ? アンタ誰よ! 田中くんの助手席は私の席よ⁉︎ 早くそこを退きなさいよ‼︎」


 すると千華さんは雪世の言うとおりにシートベルトを外して、そのままドアを開けて車から降りてしまった。


 鬼の形相の元カノと凜とした表情の彼女。

 あんなに圧倒していた雪世だったが、今では千華さんの佇まいに怖気た素振りを見せ始めてきた。


「結婚式のキャンセル料……およそ三百万。崇さんが招待されているのは披露宴だけど、チャペルとかも予約していますよね? 招待状も出しているし、それなりの金額がかかることも予想されますけど、本当に大丈夫なんですか? キャンセル料は全部あなた負担になりますよ?」


 ち、千華さん?


 普段の彼女からは想像できない饒舌っぷりに、思わず目を疑った。そして目を背けていた現実に、雪世も反論できないまま黙り込んでいた。


「そもそも崇さんは私と付き合っているんです。ちなみに私達もお付き合いをしています。これ以上、私のに手を出すようなら、私も然るべき対処を取らせて頂きますが、どうなさいますか?」

「な、何よアンタ……! そもそも私じゃなくて、田中くんが私に未練があるって言っていたから」

「未練なんてこれっぽっちもねぇよ! むしろ関わったこと自体悔やんでいるのに!」


 慎司さんが冗談半分で言った言葉を過剰に捉えたのなら申し訳ないけれど、それにしたって雪世の行動は常識を遥かに上回る愚行だ。


 やっと自分が犯した罪の大きさに気付いたのか、雪世は顔面蒼白になってガタガタと震え始めた。


 だが、もう何もかもが遅い。


「た、田中くん。私のこと、好きなんだよね? それなら二人の再出発の為にお金を払ってくれないかなァ?」

「俺はあなたのことなんて一ミリも好きじゃないし、むしろ過去の裏切りを謝罪してもらいたいくらいなんだけど。キャンセル料が発生してもアンタのせいだし、千華さんが訴えた時には、しっかりと事実を受け止めてほしいです」


 だが、そんな俺の言い方に千華さんはまだ不満があるようだった。「もっと、もっと強く!」と口をパクパクさせながら伝えている。


 そうだよな。この機会を逃したら、もうチャンスはないかもしれない!


「俺は雪世さんみたいな浮気女はお断りです

 ! 金輪際、俺の前に現れないでくれ! 俺は千華さんだけが大好きなんで‼︎」


 もう永吉先輩と雪世に関わってから、無駄に心に傷を負いまくりだったのだ。いい加減解放されたい。

 こうしてハッキリと拒まれた雪世は、プルプルと震えながら立ち去っていった。


 ———……★


「キィィぃぃーッ! 何なのあの女! あの女が田中くんを誑かしているのね! 絶対に諦めないから! 私が田中くんの目を覚ましてあげるんだから‼︎」


 ——あれだけハッキリと言われても諦めない雪世さんw

 次のターゲットは永吉先輩です!

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