第15話 もう一人の被害者
「グループチャットを利用していたのは主に三人。主犯は永吉先輩。あとは
名前を聞いて思い出した。
確か、永吉先輩の金魚のフンのようについて回っていた奴らだ。
アイツらも絡んでいたのかと、救いようもない情けない気持ちが込み上がってきた。
「それとね、崇さんや慎司さん以外にももう一人、被害者っぽい人がいたんだけど」
俺たち以外にも——?
俺は慎司さんと一緒に顔を見合わせ、誰だと脳内をフル稼働させた。
「
その瞬間、懐かしい思い出が鮮明に蘇った。
確か物静かでアイドルに詳しかった同じ歳の女性だ。バイトを辞めてからは全く連絡を取っていなかったが、彼女も被害に遭っていたとは知らなかった。
「マイペースな透子さんは、奴らの格好の餌食だったみたいで、何かと遊ばれていたみたい。コンタクトを取ってみたら、私達に協力する代わりに仲間に入れて欲しいって言われたんだけど、どうかな?」
透子さんが?
俺と慎司さんは眉を顰めて顔を見合わせた。記憶違いでなければ、透子さんはかなりの曲者だ。自分の言い分を否定されたら牙を向く。言葉にトゲがある。好き嫌いが激しい。
特に大好きなアイドルのことを少しでも貶されたら、百倍になって仕返しをするほど熱烈なファンだったはずだ。
あまり気乗りはしないけれど、少しでもカードは欲しい。
俺達は透子さんと連絡を取り合うことにした。
———……★
そして後日、近くのファミレスで待ち合わせた俺達は、久方ぶりの再会を果たした。
ハッキリした顔立ちなのに、少し野暮ったい雰囲気が残っているのは、バイト時代から変わっていなかった。
カバンにつけているアクリルキーホルダーも相変わらずだった。
「透子さん、お久しぶり。田中だけど、覚えているかな?」
あまり大人数でない方がいいと判断し、今回は俺と羽織さんと透子さんの三人で集まることにしたのだが、慎司さんと同様の反応を見せてきた。
「本当にあの田中くん? 随分と変わったね」
「ありがとう。透子さんは昔のまま変わらないね」
いや、少しだけ違う。昔の彼女は俺の顔を見ても頬を染めて目を逸らしたりはしなかった。いや、俺だけでなく誰に対しても冷徹な態度を貫いていたはずなのに、意外な反応を見せられ俺の方が戸惑いを覚えた。
「九州ナインの
「は、えぇ?」
確か九州ナインは透子さんの推しアイドルグループの名前だ。そんなイケメンに似ているなんて畏れ多い。いくら似ているとはいえ、俺は一般人だ。写真なんてとんでもないと断り続けていたが、一向に引いてくれなかったので渋々と了承した。
「まさか田中くんがこんなイケメンだったなんて、盲点だった。どうせならコンサート衣装を着てもらって写真を撮らせてもらおうかな? それとも黄瀬くん風の服を着てもらって、サービスショットを(ぶつぶつぶつぶつ……)」
「あ、あの透子さん? 早速だけど話を聞かせてもらえないかな?」
ハッと我に返った透子さんは、コホンと咳払いをして何事もなかったかのように姿勢を正して前を見てきた。
「羽織さんから話は伺いました。この度、永吉さん達がご結婚されるそうで………。ふふふっ、ふははははは! あれだけ散々私のことを貶していたくせに? 何でアイツが幸せになるの? 絶対に許さない! 絶対に阻止してやる!」
——恐っ!
あまりにも突然の豹変っぷりに、俺も羽織さんも驚きを隠せなかった。これは相当な恨みを抱いているようだ。
「許せるわけがない! アイツら、私の心酔している九州ナインを馬鹿にして……! 大体、アイドルに夢中になって何が悪いの? 私は誰にも迷惑を掛けていない! 私が勝手に推してるだけなのに! なのに私の顔を見る度に小馬鹿にして……!」
確かにそういう場面を何度か目にしたことがある気がする。
透子さんを見てクスクスと嘲笑したり、陰口を叩いたり。しかも第三者には勘付かれない程度に、隠れてするからタチが悪かった。
「しかもグループチャットでも悪口を言っていたんでしょ? 羽織さんから見せてもらったよ。アイツら、本当にクズだ。人のことを馬鹿にしておきながら皆に祝福されて結婚式を挙げるだなんて、絶対に許さない」
「私も透子さんと同意見。このグループチャットのスクショを披露宴の際に流してやってもいいよねー」
「そう! 結婚自体はどうでもいいんだけど、アイツらがどんな奴かだけは皆にも知ってもらいたいんだ。アイツらの化けの皮を剥がしてやりたい!」
復讐の炎を燃やす二人に圧倒されながら、この様子を俺は一人で傍観していた。
———……★
「それにしても田中くん。本当にイケメンになったねぇ。黄瀬くんって呼んでもいい?」
「いや、それは勘弁して下さい……(回りの人の視線が痛い)」
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