第38話 崇、お祓い行った方がいいってばよ
それから数日後、相変わらずの平和な日々に慣れてきた頃、仕事をして夕食の買い物を済ませて家でまったりとした時間を過ごす。そんな贅沢な日々に堕落し始めたとも言える状況だった。
「堕落じゃないよ、これは新婚さんが送る普通の生活」
「そうだけど、世の中には幸福保存の法則っていうのがあってね」
「それも根拠のない話でしょ? 楽しい時には思いっきり楽しむのがいいよ」
そう言ってとびきり甘い時間を過ごして……そのうちバチでも当たるんじゃないかと思うくらい満ち足りた幸せな日常だった。
だが、やはり平和だけなんてありえなかった。彼女の柔らかな唇に重ねようとした瞬間、訪問を知らせるチャイムが部屋中に鳴り響いた。
強張る身体、走る緊張感……。
誰だろうとインターフォンのボタンを押すと、渋い男性の声が聞こえてきた。
「千華、崇くん。急に済まないな。千華の友達から結婚祝いを預かったから届けにきたんだ」
訪問者は千華さんのお父さんだった。
近くに用事があったので結婚祝いが届けてくれたようだったが、その送付人に千華さんは難色を示していた。
空気が読めなかった千華さんの結婚を祝ってくれる友人は、片手で数えるよりも少ない。しかもその子達には、直接報告を済ませて既にお祝いも頂いていたのだ。
やはり来たか……と、互いに顔を見合わせて固唾を飲む。
果たして送り主は誰なのか?
お義父さんが抱えていたのは意外と大きな箱。そこまで重さは無いものの、両手で抱えなければ持ち上げられないほどだった。
「お義父さん、すいません。わざわざ届けて頂いて」
「なぁに、用事のついでさ。今日は急だったからこれで失礼するよ。千華も崇くんもいつでも遊びに来なさい」
「ありがとうございます。お義母さんにもよろしくお伝え下さい」
包装紙は有名ブランドで一見怪しいところは見当たらない。だが、頭の中で鳴り響く警告音は鳴り止むどころか大きくなる一方だ。心臓もバクバクして、とても苦しい。
流石に爆発物とか死骸とか危険なものは入っていないと思うのだが、それでも不安は拭えないものだ。
恐る恐る包装を取り、箱を開けると、中には割られ散った夫婦茶碗が。
「——ゲェ、マジか。新婚に贈るものじゃないだろう、こんなん」
夫婦茶碗は定番なものではあるが、割れてしまうと縁起が悪いと敬遠されがちなものでもある。それをわざわざ割って贈るなんて、悪意しか伝わってこない。
そして犯人は——同封されていた手紙にご丁寧に記されていた。
『 絶対に許さない。
別れろ別れろ別れろ。
赤江 』
真っ赤な字で——此奴は一体何を考えているのだろう?
千華さんと春樹さんが付き合っている時には嫌がらせ三昧で、しかも寝取って妊娠までしておいて、いざ千華さんが愛想を尽かして離れたらヨリを戻さないかだなんて。
真意が見えないのだ——まるで内臓を直接掻き回されているかのような、気持ち悪い不快感が残る。
しかも、この贈与物はたんなる嫌がらせではなかったようだ。
粉々になった破片の中に紛れ込まされていたのは子供用のGPS。千華さんの居場所を突き止めることが目的だったようだ。
「宣戦布告とみなしてよさそうだね。ここまでしつこく付き纏われるなら、徹底的にやるしかないか」
真っ青になって怯える彼女の抱き寄せて、守ると誓った。
もう、前のように千華さんを危険に晒すような真似はしない。
「俺が守るから安心していいよ」
怯えて震えていた彼女も、俺の服をギュッと掴んでは安心したように小さく頷いた。
———……★
「こんな呪いが込められた割れ物なんて、捨ててやる! 心置きなくポイだ!」
皆様は物を粗末にしないよう、お願いしますm(_ _)m
※ 元々は宅配業者に配達してもらっていましたが、本来は宅配物にGPSなど電波を発する物は入れられない為、千華のお父さんに運んで頂きました。
やむ得ない変更、ご了承くださいm(_ _)m💦
※ また、このような行為は犯罪になりますので、くれぐれも真似をしないように(——と言っても、千華ちゃんの両親から住所を聞けばこんな回りくどい方法は取らなくても問題ないんですけどね💦)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます