第21話 浮気は病気、しない人はしないのです

 確かにパン屋で会った彼はとてもモテるだろうと思った。雰囲気、顔貌、仕草など。どれを取っても敵う気がしない。


「でも私は崇さんと出会って、男性が皆、浮気をするわけじゃないんだって気付かされたよ。それまでは一番知っていた男の子が春樹だったから、男の人ってこんなもんなのかなって諦めていたけど、一途な人は本当に一途なんだって」


 これは褒められていると受け取ってもいいのだろうか?


 自分の場合はダサ男で、雪世のようなオタサーの姫みたいな女子にすら捨てられる始末だったから、千華さんのような優しい人を一生かけて守りたいと思っただけなのだが。


「実は崇さんの見た目が良くなった時、心配したんだ。春樹元カレのように女癖が悪くなったらどうしようって」

「え、俺が⁉︎ いやいやいや、俺の場合はどんなに見た目が良くなったとしても、中身がコレじゃ自信ないし、千華さんのような物好きじゃないと相手にされないと思っていたし!」


 ——しまった、物好きは失言だった。


 慌てて口元を押さえたが、既に時は遅し。

 だが、彼女は怒るどころかケラケラと笑って綻ぶような笑みを見せてきた。


「崇さんは見た目も中身もイケメンだよ。もう少し自信持っても良いのに、勿体無い。でもそんな謙虚なところがいいのかな?」


 それを言ったらナチュラル美少女の千華さんの方が心配である。元カレもイケメンだし、今までも相当モテていたのでは——と、俺は推測している。


「うーん、それなりに告白とかはされてきたけど、好きでもない人と一緒にいても疲れるだけだし、そんなしてる暇があったらネイルとかメイクの練習していたい」

「そういうもんなんだ」

「崇さんで例えたらマンガかな? 意外と趣味のある人は浮気しないのかもね」


 ただし、浮気目的に趣味をしている人間は要注意らしい。そもそも目的が違うので最もであるが。


「ところでさ、一つだけ聞いてもいい?」

「ん、何? 私で答えられることならいいよ」


 そんな浮気ばかりしている最低彼氏。妊娠・中絶が決定打だったとしても、それまでは浮気を許していたのだろうか? 


「あー……、実はね。元カレとは言っても、友達の延長みたいな感じだったから、大して春樹に興味がなかったの」

「え? どういう意味?」

「だって、春樹の回りにいる取り巻きの人が、スゴく嫌な顔をしていたから近付けなかったし。私も春樹と一緒にいるよりも羽織と一緒にいた方が楽しかったし。だから形だけって感じかな?」


 ——説明されても、いまいち理解できない。


 俺が眉を顰めて唸っていると、千華さんは首に腕を回してギュッと抱き付いてきた。


「彼氏なんて名ばかりで、実際は友達みたいな関係だったってことだよ。だから春樹が浮気をしていても、他の女の子が傍にいても興味なかったの。でもまぁ、本当に浮気をして、子供ができるとは思っていなかったけど」

「千華さん、それは流石に彼氏に同情するよ。元カレはさ、千華さんと恋人らしいことがしたかったんじゃないん?」

「ちゃんと言ってくれたら良かったのにー。何も言わないで他の女の子を代用にするなんて、そっちの方がありえないよ」


 確かに、千華さんの言い分の方が筋が通っているか。


 だが、正直に言うと、パン屋で会った彼が、そこまで悪い奴に思えないのは俺がおかしいのだろうか?


 千華さんのことを疑うわけではないのだが、あの爽やか青年が……とも思ってしまう。


 まぁ、もう会うことはないだろうから、どうでもいいのだが。


 俺としては、千華さんが元カレと再会して、復縁したいと告白されることが一番恐ろしかった。その可能性がなくなっただけでもよしとするべきだろう。


「………ちなみに、元カレの取り巻きだった妊娠した女の子の名前とか、覚えてる?」

「えー、確か赤江あかえちゃんだったかな? やめてよ、もう。崇さんの不幸体質、彼女とまで出会ってしまったら、いよいよ本物だから」

「い、いや。流石にありえないとは思うけど、一応念の為にね」


 そして買ってきたパンを二人で温め直して、少し遅れた朝食を取ることにした。


 ———……★


「そして人は、これをフラグという……」


 崇、またしてもクズクズホイホイするのだろうか⁉︎


★ありがとうございます!

@kaonyan10様・@teer_ring_saga様


そしてナカムラマコ様、kakujc01様、素敵なレビューありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る