第24話 何をやっても悪い方にしか転ばない
崇視点……★
老人ホームの介護。俺が顔馴染みのおばあさんをリハビリ室へ連れて行った時に、珍しく職場宛に連絡が入ったと聞いて、変な汗が噴き出た。
緊迫する空気、速なる心拍数。声を聞いた瞬間に、その不安は確信に変わった。
『崇、永吉達に動きがあった! 千華ちゃんに手を出そうとしているようだけど、何も起きてないか?』
「……千華さんは今日、仕事なんです。けど俺に連絡してきたってことは、千華さんと連絡が取れないってことですよね?」
俺の質問に慎司さんは黙り込んだ。
分かっている、きっと羽織さんなら無駄な行動はせずに千華さんの無事を確認するはずだ。
職場に連絡をしてまで伝えてきたってことは、おそらくそう言うことなのだ。
ただ、永吉にそこまでの行動力があるとは思ってもいなかったので、俄かに信じられなかったが。アイツは俺と同じく良くも悪くも小心者。保身の為に大それたことはしないと踏んでいたが、読みが甘かったようだ。
『どうする? 警察に連絡するか?』
「………グループチャットでの戯言として片付けられる可能性も高いけど。いや、お願いします。アイツらがそのつもりなら、俺も覚悟を決めます」
俺が出社して三時間。
千華さんが職場に向かい始めたのが一時間前。
俺がいない間は絶対に来客対応しないように伝えているので、もし接触してきたのならバイト先に向かった時だろう。
単独犯? 複数犯?
事件性があるのか、それともただの事故?
何も手掛かりがない今、黒い
ただ、千華さんの身に何かが起きたことには変わりない。なにもなかったなら「良かったね」と笑い飛ばせばいいだけだ。
俺はそのまま事務室にいた主任に事情を話して、休みをもらった。今すぐにでも千華さんを助けなければならない。
「主任、すみません。勝手ばかり言って」
「いいよ、田中くん。君は普段、とても真面目だからね。それよりも心配だね、彼女さん」
主任の言葉に俺は、少しだけ訂正を入れた。
「実は彼女じゃなくて、婚約者になりました。俺にとって、とても大事な人です」
わざわざ言い直した言葉に主任も驚いていたが、嬉しそうに笑みを浮かべて頷いてくれた。
「そんな大切な人なら尚更だ。早く行ってあげなさい」
こうして俺は、囚われの姫となった千華さんを探しに出たのだった。
———……★
千華視点……★
一方、永吉達に拉致された私は、コンテナが沢山並んでいるレンタルスペースに連れ込まれていた。
人家も少なく、大声を出しても気付いてもらえなさそう。しかも山が多いせいで、運転する車もスピードを出して通過していくばかりだ。
「な、永吉さん……ほ、本当にこんなことをして大丈夫っすか?」
「バカ野郎、してしまった以上は仕方ねぇだろう? 今更後戻りは出来ねぇんだよ!」
やっと事態の深刻さに気づいたのだろうか?
幸い、今は拉致された以外の被害はないので、解放してくれるのなら訴えも程々にしてあげるが、少しでも性被害を及ぼしたらタダでは済ませない。
「監禁は立派な犯罪です。私が訴えたら三人とも刑罰は免れないですよ? 少しでも触れたら、どんどん刑罰がかさみますからね」
強気な私の言葉に怖気づく三人。
そんなにビクビクするのなら、最初から大人しくしていて欲しい。
私は——自慢ではないが、昔からトラブルに巻き込まれやすい性分だった。
主に原因は春樹の取り巻きだったけれど、冗談半分に教室に閉じ込められたり、知らない男子に絡まれて怖い思いをしてきたものだ。
今までも自分の身は自分で守ってきた。
幸い手足も自由なままだ。いざとなったら急所を攻撃して、最後まで抵抗してやるんだから。
「た、助けを呼ぼうと思っても、そうはいかないぞ? お前の荷物は捨てさせてもらったからスマホも財布もないしな! お前は俺たちの手中なんだ!」
それで脅したつもりだろうか?
たとえ、脅しの為に暴行された写真や動画を撮られたって、私は怖じけるつもりは毛頭ない。
理不尽な暴力には屈したくない。こんな奴らの言いなりになりたくない!
「私と違って崇さんは優しくて臆病者だから見逃してもらえたかもしれないけど、私は遠慮しないから! 人のことを傷つけておきながら、自分が不利になるとなりふり構わず攻撃して! 自分勝手にも程があるのよ! 大っ嫌い、本当に大っ嫌い!」
目の前の卑怯者がかつて付き合っていた男と取り巻きに重なって見える。
『アイツらが勝手にしたことだろう? 俺には関係ないし、俺が言ったところで言うこと聞いてくれると思わないし』
『私の方が春樹を愛しているんだから、アンタが身を引けば良いでしょ? 大して好きでもないくせに、幼馴染ってだけでデカい面しないで欲しいのよ』
確かにあの人達の言い分も正しかったかもしれない。
けれど、そこに絶対的な正しいはないはずだ!
自分達にとって都合のいいことばかり、正当化するな!
「くっ、こいつ生意気だな。けれど気の強い女ほどヤってしまえば、雪世のように快感堕ちするに違いない。だって俺のは田中よりも立派なんだからな!」
さっきから何かとデカさを主張してくるけれど、それでしか崇さんに勝てないのだろうか?
そもそもそれも違う。
「あなたはデカいことを自慢してるけど、大抵の女の人はデカい人とヤリたくないんだよ?」
私の言葉に永吉は凍りついた。
「何だと……?」と、根本から否定されたことがショックだったようだ。
「裂けるし、痛いし、場合によっては気持ちのいいところに当たらないし。AVやエロ同人の見過ぎなんだって。フィクションと現実を混合させないで」
そんな私の言葉に、永吉はプツンと切れ、怒りをむき出しに胸倉を掴んできた。
「さっきから黙っていりゃ調子に乗りやがって! ちょっと可愛いからって言っていいことと悪いことがあるんだよ!」
「それじゃ、あなた達が好き勝手言うのは許されるの⁉︎ あなた達が言ったことにも傷つく人はいるんだよ?」
「黙れ黙れ! 生意気なんだよ!」
永吉の掌が私の頬を激しく叩いた。
熱い、耳に当たったせいか音も鈍い。でも私は、コイツらにだけは屈したくない。
下唇を噛み締めてグッと睨みつけたが、あまり効き目はなかったようだ。むしろ殴った高揚から、男達は興奮状態に入ったようだった。
「どうせ犯罪なら、美味しい思いをしようぜ? こんな美人とヤれるなら、逮捕されてもいいや」
カチャカチャとベルトを外す音がコンテナの中に響いた。絶望がすぐそばまで歩み寄っているのが見えた。
———……★
「———っ!」
今回だけは2話更新。
次回の更新は12時05分です!
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