第25話 天誅!【とどめ】
千華視点……★
所詮、男の力に女では敵わないことは分かっていた。それが三人となれば、事態は絶望的だった。
スマホもない、ここがどこかも分からない。
でも、タダではヤラせない!
最低でも股間に一発喰らわせてやる——!
覚悟を決めたその時だった。
ニタニタ笑った永吉達の背後に迫る黒い影。素早く動いたソレは、永吉の後ろ襟を掴んで引き離した。
そして絶望のドン底にいた私を、真っ直ぐに捉えて呼びかけた。
「千華さん! 大丈夫か⁉︎」
息を切らして汗だくになって、死に物狂いに駆けつけてくれた様子が一目で分かった。
込み上がっていた恐怖が安堵に変わる。
彼の腕の抱きしめられた瞬間、視界が歪んでボロボロと涙が溢れ出した。
「永吉、お前ら……っ! 分かってんのかよ、お前らがしてることは犯罪だぞ! 男が寄ってかかって女の人に監禁、暴漢なんて冗談じゃ済まされないぞ!」
「違っ、俺達はその! そもそもお前が俺の雪世を誑かすのが悪いんだ!」
「ふざけんじゃねぇよ! それなら俺に言えよ! 千華さんは関係ないだろう⁉︎」
男なんて、人間なんて……自分勝手で救いようもない人ばかりだと諦めていた。でも崇さんは違う。
ブルブルと震える私の指をギュッと掴んで「怖い思いをさせてごめん」と謝ってきた。
崇さんは何も悪くないのに——……。
彼が駆けつけてくれたおかげで、本当の意味でのトラウマを避けることが出来たのだ。
「でも、どうして……? 何で俺達の場所が分かったんだよ!」
想定以上の速さで駆け付けた崇さんに、永吉は疑問をぶつけた。すると彼は私の靴を見て種明かしをした。
「少し前に千華さん宛に不審な電話があったから、万が一に備えて靴底にGPSをつけてもらっていたんだ。もし事件に巻き込まれて連絡が取れなくなっても、居場所が分かるように」
そう言えば、そういう事もあったなと言われて思い出した。あの時は心配性だなと半ば呆れ気味だったけれど、こんな形で役に立つとは思ってもいなかった。過去の崇さん、ごめんなさい。
「ち、違うんだよ、田中! これはその、監禁とかじゃなくて合意の上のことなんだ! なぁ、お前ら!」
「そうだ、そうなんだよ! だから警察に通報とかしないでくれ、な?」
この人達、証拠がないのをいいことに都合のいい言い訳を。
だが崇さんは呆れるようにため息をつくと、私の仕掛けていた盗聴器を見せてトドメを突き付けた。
「先輩達の言動は全部、録音させてもらっています。証拠がないと思って好き勝手言いやがって……! 悪いことをしたと思っているなら、まずは謝罪しろ!」
コンテナの壁を殴って怒りを発散させている。こんなに怒った彼を見るのは初めてだったが、自分の為に憤ってくれた彼に胸中が満たされていく。
ピリピリした空気があたりに漂う。しばらくしてからパトカーのサイレンの音が近付いてきたが、きっと崇さんが手配してくれたに違いない。
「ち、違うんだよ、田中! その、俺は」
「言い訳は然るべき場所で伺います。金輪際、俺達に近づかないで下さい」
最後まで謝罪の言葉を口にしない永吉達に呆れつつ、最早どうでもいいと諦め、私を包むように抱き締めてくれた。温かくて、少し汗臭い湿った服に愛しさが込み上がる。
「千華さんが無事で良かった……。もし、君に何か起きたらと想像しただけで、胸が張り裂けそうだった」
「私はどうやって反撃しようかなって、そればかり考えてた。でも……やっぱり恐かった。崇さん、助けてくれて、本当にありがとう」
崇視点……★
こうして俺達の、長い戦いは終止符を打つ形になった。その後、逮捕されたことが知れ渡った永吉達は職を失い、無残な生活を強いられたと聞いた。
せっかく作った動画も公開されることなく無駄になってしまったのだが、この結果に透子さんや慎司さんも胸を撫で下ろしていた。
そして数ヵ月後、ご近所にも噂が広がった雪世も住みづらくなり遠くへ引っ越したと噂を耳にした。きっと金輪際二度と会うことはないだろう。
「現れたところで、接近禁止令が出ているから訴えるだけだけどね」
あれだけの出来事があったにも関わらず、呆気羅漢としている千華さん。タフというか度胸が座っているというか。ある程度のトラウマも覚悟していたが、平気そうで安心した。
「二度とあんな思いはしたくないけどね? でも間一髪のところで崇さんが助けてくれたおかげだよ」
こうして中止となった結婚式。
それを俺達は、数年後に自分達の結婚式で記憶を重ね塗ることとなるが、それはまだ当分先の話。
———……★
「さよなら、永吉先輩。さよなら、雪世! お幸せに——とは、絶対に言いたくないけれど」
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