第34話 最善の方法
慎司視点……★
彼女には何か後ろめたい過去があるだろうとは、何となく予想はついていた。
崇には言えなくても、もしかしたら俺くらいの人間になら相談できるんじゃないかと思って茶化すような雰囲気で尋ねてみたのだが、思っていた以上の事実が判明して対処に困り焦ってしまった。
(縛られてって、どのレベルだ? 長時間掛けて洗脳のように告げられるって、尋常じゃないだろう? いいのか? そんな奴を野放しにしても)
千華ちゃんとの約束なので他言はするつもりはないのだが、彼女の身に危険が迫っていることだけは伝えていたほうがいいだろう。
一先ず崇の職場近くまでタクシーで向かい、俺達は合流を果たした。
千華ちゃんの姿を見るなり慌てて駆けつけて、本当に愛されてるね千華ちゃんと微笑ましく眺めていたものだ。
「慎司さん! ありがとうございました……! その後の話を聞いた時、慎司さんがいなかったらどうなっていたか、考えただけでゾッとして」
「俺は全然問題ないよ。それよりさ」
俺の言葉に千華ちゃんの目色に不安が混じった。大丈夫、約束は守る。
でもね——……。
「崇、お前さ。引っ越しとか出来ないん?」
出来ることなら、千華ちゃんは元カレ達から距離を取ったほうがいい。あんな頭が狂った奴らが生活圏内になるなんて、安心して生きていけない。
もちろん崇にも千華ちゃんにも仕事があるし、家族との折り合いもあるだろう。
っていうよりも、コイツらはご両親に挨拶を済ませてお付き合いをしているのだろうか? 千華ちゃんのご家族は元カレの所業を把握しているのか?
もうさ、さっさと結婚して部外者が入り込む隙がない状況にしてやればいいのに!
「流石に引っ越しはその、千華さんの都合もあるだろうし」
「でもさー、永吉達の件もあったし、環境変えるのも大事だって。幸い、崇の仕事は資格さえあれば転職しやすいだろう? せめて千華ちゃんは仕事を変えたほうがいいな」
千華ちゃんは心配そうにソワソワしつつも「うんうん」と頷いていた。赤江や元カレに遭遇することも恐れているが、大事な人達に過去の過ちを知られることが何よりも免れたい事実だから、きちんと検討してくれるはずだ。
いや、俺だって親友である崇がいなくなるのは寂しい。
だけどコイツらが苦労する方がもっと嫌だ。
「俺も色々協力はするし、きっと羽織ちゃんも透子も手伝ってくれると思うけどさ。根本的なことを解決しないと意味がないんだよ」
少し前の俺なら「返り討ちにしてやろう!」と意気込んでいたかもしれないけれど、永吉達で痛感したのだ。
頭がおかしい奴らには、常識は通用しないのだと。
「……あとさ、詳しくは言えないけれど、千華ちゃんってお前が思っている以上にツラい思いをしてきたから、ちゃんと幸せにしてやれよ」
「え?」
困惑の表情のまま戸惑う崇の肩を叩いて、俺はそのまま二人に別れを告げてバス停へと向かった。
気を利かせて発した言葉が崇を不安にさせたとも露知らず。
崇視点……★
「は? 待って、何それ?」
慎司さんらしくないカッコつけた言葉に、俺はただただ焦燥していた。
まるで自分の方が千華さんのことを知り尽くしているような優越感。
俺がいない間に何があったんだ⁉︎
「崇さん、さっき慎司さんが言っていたことだけど」
「え、何?」
千華さんが何かを伝えようとしてくれているけれど、今はそれどころじゃない。
勘弁してくれ、慎司さんに千華さんを寝取られたら俺は立ち直れる気がしない。
おそらく人間不信に陥って絶食の果てに命を絶つだろう。……まずい、あまりのショックに変な思考回路になっている。
「引っ越し、検討できないかな? 私も怖いんだ……赤江や春樹に遭遇するの」
口元を手を覆いながら不安そうに眉を垂れ下げて相談する様子を見て、慎司さんや千華さんの言う通りだと痛感した。
何もせずに後悔するよりも、色々して策を立てる方がいいだろう。
きっと千華さんに何かあったら、俺は生きる気力がなくなって全てのことに手がつかなくなる。そうなるくらいなら転職くらい些細なことだと思てしまうから不思議だ。
「っていうか、したいね、結婚」
——ん?
「崇さん、前に話していたよね? そうだよ、私達、結婚しない? 結婚しようよ!」
「え、えぇー?」
人生で最も重要なイベントをこんなタイミングで?
いやいやいや、ちょっと待ってくれ千華さん!
俺にも都合や計画ってもんがある。
こんなに簡単に重要なイベントをやり過ごさないでくれ!
———……★
「慎司さんめ! 他人事だと思って適当なことを!(プロポーズくらいはカッコよく決めたかったのに!)」
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