第11話 脳がおかしくなりそうだ

 崇視点……★


「それじゃ、私と千華で永吉先輩達の近辺状況を探ってくるね」

「本当に二人だけで大丈夫? 永吉の知り合いだから類は友を呼ぶで変なのしかいないかもしれないけど」

「でも慎司さんの知り合いも多いでしょ? 顔が知られていない私達の方が探りやすいと思うからさ」


 話し合った結果、俺のような被害者が他にもいるのでは——ってことで、千華さんと羽織さんに身辺捜査を依頼したのだ。

 残った俺と慎司さんは、俺の家で二人の報告を待つことにした。


「っていうかさー、羽織さん……めっちゃ可愛くねぇ? 彼氏いるのかなー? 俺、立候補したいんだけど!」


 初めて羽織さんを見た時から、慎司さんは彼女に惚れ込んで事あるごとに褒めちぎっていた。あの勝気な雰囲気がドストライクだったらしい。


「なぁ、崇! 俺に協力してくれないか! 永吉の結婚式までに羽織さんと仲良くなりたい! あわよくば付き合いたい!」

「そんなの本人に直接言えばいいじゃないですか! 俺に聞かれても頑張れしか言えない」

「冷たい奴だなー、もう! そんなんだから元カノ寝取られるんだぞ? そのうち千華ちゃんも寝取られるかもしれないぞ?」


 縁起でもないことを言うな!

 これでも前の出来事がトラウマになっているのだ。たとえ最初から仕組まれていたことといえ、寝取られは脳を破壊される。


 それが最愛の千華さんだったら……想像しただけで胃が痛くなる。


「けどまぁ、こうして4人で集まれるのも崇が永吉に寝取られたおかげなんだよなー。あんな性格悪い人間、なかなかお目にかかれないよなー」

「……俺は慎司さんも大概だと思うけど? 後輩の不幸を餌に好みの女の子を口説こうとしてるし」

「ばっ! お前、そんなふうに言う? 俺はお前のことを思って仕返しを手伝ってるのに?」


 当初の動機はそうだと思うが、今は趣旨を変えているはずだ。別に良いんだけど……。

 人の粗探しをしているよりも、自分の幸せを優先して考えてくれた方が俺も肩の荷が軽くなるってもんだ。


「けどさ、前のバイトの奴らって、崇に否があって別れたと思ってるんだよなー……。皆に慕われている永吉の本性を見せつけてやりたいよな」


 確かに、その点に関しては一理ある。

 今のまま告発しても雪世元カノを寝取られた俺が妬んでいるとしか思われないだろう。それほど永吉先輩の影響力は大きかったのだ。

 関わりのない集まりだけれども、マイナスのイメージのままで去るよりも真実を突きつけてやりたい。


 どうしたもんだろう……と腕を組んで悩んでいると、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。


「ん、誰だろう?」


 千華さんたちは合鍵を持参しているから鳴らさないはずなのにと思いながらインターフォンを取ると、思いがけない訪問者が名乗り出した。


「はい、どちら様ですか?」

『よう、田中ー。元気にしてたか?』


 ——ん? んん⁉︎


 最近聞いたばかりの憎ったらしい声の主に、思わず口角を引き攣らせた。

 そんな俺を心配したのか、慎司さんも近付いて「どうした?」と声をかけてきた。


「あ、あ、アイツ……! 永吉先輩が来たんですけど⁉︎」

「はぁ? 何で? 永吉?」


 この訪問は想定外だった。

 今更居留守は使えない。どうすれば良いのだろう?


『おいおいおい、田中いるんだろ? せっかく雪世と一緒に来たのに無視するなよー』

『田中くーん、私達の結婚を祝福する為に結婚式に参加してくれるんでしょう? そのお礼を言いに来たのー』


 無理無理無理無理!

 なんで? 嘘だろう?


 普通、彼女を寝取った奴がのうのうと会いに来るか? この状況、おかしすぎるだろう?


「慎司さん、どうするべき? 会うの? 俺は会わないといけないの?」

「俺に聞かれてもー……! え、俺がいることはバレてない? 俺のことは言わないでくれよ?」

「うわ、役立たず! てか、どうしよう。会いたくないんだけど!」


 しかし、このまま逃げ続けるわけにもいかないだろう。俺は覚悟を決めて対応することに決めた。


 もうあの頃の俺じゃない!


 意を決してドアを開けると、そこにはニタニタと笑みを浮かべる先輩と元カノが仲睦まじく立っていた。これ見よがしに腕を組んで気持ち悪いったら、ありゃしない。


「おいおい、開けるのが遅いじゃないか、田中! 今度、俺と雪世の結婚式に参加してくれてありが——……ん? え、お前……田中?」

「永吉先輩、雪世さん。この度はおめでとうございます! まさか二人が結婚するとは思っていなかったですが、心から祝福いたします!」


 言った、言い切った!

 一ミリもおめでとうなんて思っていないけれど、ちゃんと言った!


 きっと俺を惨めな思いにさせる為に、盛大なマウントをとってくるんだろうなと思っていたが、予想に反して二人は黙り込んでいた。


「ん、先輩? 雪世さん? どうしたんですか?」

「ど、ど、どうしたはコッチのセリフだよ! お前、本当に田中か⁉︎」


 何を言ってるんだろう?

 ここに俺以外の田中はいない。


「目が悪くなったんですか、先輩。眼科行きますか?」

「ちちち、違う! 俺がおかしいんじゃない! お前だよ、お前! た、田中……お前、別人じゃねぇーか!」


 うわ、これは久しい反応。慎司さんと同じ反応してるよ、この人。

 一方、雪世は顔を真っ赤にしながら表情筋を壊している。まるでテレビの中のアイドルを見ているような羨望の眼差しだ。


「ふふふ、ふはははははは! 永吉、思い知ったか! これがお前達がバカにして見下していた田中崇だよ! 実はコイツは隠れイケメンで、素っ晴らしい物を持っていたんだよ!」


 さっきまで隠れていた慎司先輩が、まるで自分のことのように自慢しながら姿を現した。


「お前らは崇をバカにしにきたのだと思うけど、それはとんだ思い違いだ! 崇はな、崇はな……本当はネチネチ執拗前戯野郎じゃなくて、イケメンだったんだぞ!」

「いや、今その名称いらないから! バカにしてるのは慎司さんの方だろう?」


 だが、肝心の二人は言葉を発さず黙り込んでばかりだった。驚きのあまり、固まってしまったのだろうか?


「わ、私……婚約破棄する!」


 ——ん?


 まさかの第一声に、回りの男性陣は凍りついた。


「田中くん、あなたがそんなに素敵な人だなんて知らなかったわ! 私、丈太郎との婚約を破棄してあなたと復縁を所望します!」

「いィ……っ⁉︎」

「はァ? 待てよ、雪世! お前、もう結婚式場も押さえているのにバカなことを言うなよ!」


 元カレが垢抜けてイケメンになった途端、手のひらを返して婚約破棄をする最低女。 そうだよな、コイツは簡単に彼氏を裏切って寝取られたような屑女だった。


「田中くん、私達……やり直しましょう⁉︎」


 誰か、頼むから……この最低女をどうにかしてください!


 ———……★


「えぇー……? こ、これって一応、ザマァ成功? いや、絶対に違うよな? うわ、永吉の女って、マジで最低だなw」

「いや、慎司さん。そんな言ってないでどうにかして下さい……!」


5月21日付、★ありがとうございます!

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