第13話 マウントを取りたい【R−指定】
その後、慎司さん達は気を使ってか、はたまた気まずくなってか分からないが、二人ともそそくさと立ち去るように帰っていった。だが、肝心の千華さんは抱き付いたまま離れてくれなくて、どうすればいいのか途方に暮れていた。
嬉しい、嬉しいのだが——!
一応俺も好奇心旺盛なお年頃。ブラ紐が見えただけでもスイッチが入るような単純な男なのだ。
「ち、千華さん。その、少し落ち着いて?」
「逆に何で崇さんは落ち着いていられるの? 私が元カレに復縁迫られても平常心でいられるの?」
いや、無理。それは無理だけど、男には男の事情があるのだ。
何で男だけ興奮状態がモロバレなのだろう?
隠したいのに隠せないマウンテン。思わず引き気味状態にして誤魔化してしまう。
「ねぇ、崇さん。私のことが大事なら愛してるって言って? 私が一番大好きだよって囁いてよ」
もちろん千華さんのことが一番大事だし、愛してるということにも偽りはない。だが、改めて言葉にするのは些かの抵抗を感じる。
俺はまだ、そこまでのリア充経験を積んではいないのだ。
「す、好きだよ。千華さん」
「ダメ、もっと……私の不安がなくなるまで、ずっと言って?」
グイグイっと俺の胸元に顔を押し付けて、なんてあざといんだ!
しかも彼女の胸が下腹部の辺りに押し付けられて、もう限界です。
今の状態を知られたくなくて距離を取っているというのに、すればするほど縮められる距離。
「……崇さんのバカ。こんな時は素直に押し倒しちゃってよ」
この行為がどこまで計算かは分からないが、男ってあざと可愛い行為に弱いなと思い知らされた。
もういい、節操なしのエロ男だと思われてもいい!
俺は彼女の肩を掴み、そのまま抱き締めてキスを交わした。柔らかい感触が脳を溶かす。弄っていた彼女の指先が背中に回って服の中へと入ってきた。
「私、絶対に崇さんの元カノに負けないからね? 今更崇さんとよりを戻したいなんて言っても、もう遅いんだから」
「遅いも何も、俺自身にその気がないから大丈夫だよ。俺は千華さん以外の人なんて考えられないから」
そして互いに求め合うように肌を重ね合い、甘いひと時を過ごした。
「それにしても、崇さんの元カノさん。彼女がいる人によりを戻そうなんて、酷い人だよね」
お互い素っ裸なまま毛布を被って、甘い情事の余韻を堪能しながら会話を続けていた。
「酷いっていうか、もう頭がおかしいよ。羽織さんのいう通り、ちゃんと彼女がいることを伝えればよかった」
「私もその場にいたら、一言言ってやったのにね。この泥棒猫って」
いや、俺と雪世は始まってないから泥棒猫は間違っている。それとも奪おうとしている時点で盗難未遂になるのだろうか?
「結婚式、行きたくねぇなー……。もう永吉先輩たちに関わりたくないんだけど」
もし、本当にあの二人が破局したら、俺のせいになるのだろうか? 別に誘惑したわけでもないし、言い寄られても迷惑なだけなのだが?
額に手を押し当てて嘆く俺に同情しているのか、千華さんは手を伸ばしてヨシヨシと頭を撫でてくれた。ワシャワシャと掻き乱される感触が気持ちがいい。
「崇さんが行きたくないなら無理に行く必要はないけれど、私はきっちりケジメをつけたいかな? このままにしておくのはちょっと怖い」
「けど、これ以上関わって面倒なことになったら、千華さんにまで迷惑が」
「私は大丈夫だよ。崇さんが好きなのは私だって毎日伝えてくれれば。そんな自分勝手な元カノなんかに負けないんだから」
屈託のない笑顔を真っ直ぐに向けてくれる彼女に、この上ない愛しさが込み上がってきた。
俺は——やっぱり千華さんに出逢えてよかった。
彼女の耳から落ちた髪を指ですくい、そのまま頬を撫でて抱き寄せた。やっぱり千華さんだけは失いたくないな……。
攻撃は最大の防御。やはり相手に好き勝手される前に先手を打っていた方が無難なのかもしれない。
この幸せを守る為にも、あの自分勝手で高慢ちきな奴らを徹底的に打ちのめそうと心に固く誓った。
———……★
「とはいえ、どうやって打ちのめせばいいのだろう? そもそも婚約破棄すると宣言したのに、結婚式を挙げるのか⁉︎」
「盛大に振ってあげればいいよ、崇さん!」
5月21日付、★ありがとうございます!
@sho20350様・matanegi1230様・
@tel_01様、@uru4様・カッパ13様
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