第48話 結婚前夜? いやー……もうそんなんじゃないんだけどね
「いよいよ明日が結婚式……! 変な感じがするね、崇さん」
「うん、もう入籍して数年経つし、今更感はあるんだけどね」
先に入籍だけ済ませた俺達だったが、すぐに妊娠してしまった上に悪阻が酷くて中期まで断念。せっかく一生に一度の晴れ舞台なら落ち着いてからしようということになり、数年後の今となってしまったのだ。
「今は形式に拘らないでするカップルも増えてきたし、本当に多様化だよね」
「家族三人でする結婚式も新鮮かもしれないね」
入籍時は自分も転職したばかりで躊躇っていたので、タイミングとしては今が良かったのかもしれない。
それにしても千華さんの純白のウェディングドレス姿。とても一人の子供を出産したとは思えないプロポーション。結婚式の為に磨き上げたとは言っていたが、最高すぎる。
「そう言えば、今日は羽織が来るって言ってたんだけど、遅いね。どうしたんだろう?」
彼女がドアに目線を向けた時、タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴った。
さっきまでウトウトとテレビを見ていた啓太が覚醒したように立ち上がって、勢いよく玄関へと走っていった。
「はーたん! はーたん?」
「啓太は羽織お姉ちゃんのことが大好きだね。うん、そうだよ。はーたんだよ」
相変わらず仲良し同士な羽織さんと千華さん。
ドアを開けると啓太が好きなクマのぬいぐるみを抱いた羽織さんが「やっほー」って顔を覗かせた。
「遅くなってごめんねー。ちょっと啓ちぃが好きそうなオモチャを選んでいたら時間掛かっちゃって」
「それは全然いいんだけど、どうしたの? 明日会えるのに今日会いたいだなんて」
「うん、ちょっとね。あのさ、啓太も随分私に懐いてきて、面倒見ることもできてきたと思うんだけど、数時間くらい預かってあげようかなと思って」
——ん? それは、どう言う意味だろう?
千華さんと一緒に顔を見合わせていると、啓太を抱っこしながら仲良くバイバイと手をヒラヒラさせてきた。
「これは私と啓ちぃからの結婚祝い。二人でゆっくりデートしておいでよ」
「え、そんな急に言われても」
「——って言うと思ったから、はい! ディナーを予約したから、ゆっくりしてきてもいいよ。いざとなったら千華のお母さんに助けを求めるから安心して?」
「でも、そんな」
「千華も崇さんも、啓太が生まれてから二人でゆっくりなんて出来てないでしょ? せっかくの結婚式前夜なんだから、気持ちを上げておかなきゃ!」
思いがけない羽織さんからのプレゼントに、俺達は申し訳なさを感じながらも、有難く頂戴した。
その代わり、どうしようもなくなった時にはすぐに連絡してもらうこと。無理をしないことを条件に。
「啓ちぃはお利口さんだから大丈夫だよね。今日ははーたんと沢山デートしようね♡」
「はーたん、だいしゅき!」
こうして俺達は羽織さんの好意に甘えて、久々に二人きりのデートを堪能することにした。
———……★
「でも変な感じ。いつも啓太が一緒だったから、いないとすごく寂しい」
いつもは啓太の隣に座っている千華さんが、今日は助手席に座ってソワソワしていた。
母親になる前はあんなに危なっかしかった千華さんも、すっかり母親としての自覚が板についていた。
「啓太のことばかり考えていたら、せっかく預かってくれた羽織さんに申し訳ないよ? 今日は夫婦水入らずで楽しもうよ」
膝の上にあった千華さんの手に手のひらを重ねて、そのまま指を絡ませて指間を擦った。
「んン……っ、くすぐったい。崇さんのエッチ」
「あはは、そりゃスイッチも入るでしょ。せっかくの二人きりだよ。今すぐにでもイチャイチャしたいのに」
啓太が生まれてからも、してないわけじゃないが、やはり気になって上の空な状況だった。
子供を授かったのは嬉しかったけれど、もう少し楽しみたかったのも事実である。
珍しくストレートに性欲を口にした俺に戸惑っているのか、千華さんは顔を真っ赤にしたまま俯き気味に笑っていた。
「えっとー……羽織、部屋まで予約してくれたみたいだけど、先にチェックインしちゃう? お泊まりは無理かもしれないけど」
「マジで? 羽織さんってデキる女だね。どうせ夕食まで時間もあるし、ゆっくりしようか?」
ゆっくりできるかは別にして、この滅多にないチャンスを逃すわけにはいかなかった。
本当ならデートらしいプランをこなせば良かったのだろうが、突然のサプライズに余裕はなかったのだから仕方ない。
こうして俺達は久々にホテルにチェックインして、二人きりの時間を堪能した。
———……★
「ずっと頑張ってきた二人にご褒美回(笑)」
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