第51話 ちょっと待ったァ!【ざまぁ?】
「正直、いつもの感じでヤッてしまったら大変なことになると思いましたよ……。えぇ、だって結婚式の前夜ですからね。衝動を抑えるのが本当に大変で苦労しましたね」
もし、自分の胸の内を伝えることがあったら、きっと俺はこう告げるだろう。
極力、千華さんの肌に痕が残らないようにと、首元や胸元のキスを最小限にした。
ちなみに千華さんのドレスは前撮りの際に拝見済み。胸元が露出した大胆なデザインだ。
勿論、キスマークだらけのままヴァージンロードを歩くだなんて、神様が見逃してくれると思えない。
それに明日は千華さんが人生で一番綺麗になる時だ。だから最高の状態で送り出してあげなければならない——……と、思っていたはずなのに。
「崇ィ、お前……昨日、どれだけヤリ倒したんだよ!」
「え、キスマークはつけないように気をつけているつもりだったんですが⁉︎」
なんでバレた⁉︎
挙式前の千華さんの支度が終わるのを待っていた時、慎司さんはシラっと冷たい視線を送ってきた。
な、何だ?
「やっぱそうかー。無根拠だったよ、カマかけたん。多分、お前たちのことだから盛大に盛り上がったんだろうなーって思ってね」
「騙したん? 性格悪いなー慎司さんは!」
「どんな時でも盛りまくりのお前たちが悪い! っていうかな、崇。お前だよ、お前。そんな吸い尽くされましたって面してたら、そら察するわ」
おっと、それは盲点だった。
マムシドリンクも飲んで、精をつけなおしたつもりだったんだが、気づく人は気づくか。
「おかげで全力で走るのは叶わなそうですね」
「天罰だよ、エロ猿め」
久々に軽口を叩く慎司さん。そんな彼の左薬指には光る指輪が眩く輝いていた。
どうやら彼にも幸せが訪れたらしい。
「あー、うん、まぁね。俺もやっと運命の人と出逢えたってことだろうね」
結局、透子さんはアイドルに突っ走り、そのまま自然消滅。慎司さんは婚活の末に結婚を果たしたようだ。
相変わらず気の強そうな女性で、終始尻に敷かれているとか、いないとか。
「けど、透子さんも挙式から参加するんですけど、気まずくないですか?」
「まぁ、互いの幸せの為に別れたんだし、問題ないと思うけど。ちなみに透子は結婚したん?」
「いえ、名前も住所も前のままだったのでお変わりないと思いますけど」
「そっか、それを聞いて安心したよ。アイドルならともかく、他の一般人に奪われたら流石に凹むからな」
その気持ちはわかる気がする。
透子さんにはずっと、アイドルを追いかけていてほしいと勝手な願いを抱いていた。
「それにしても、あの崇が親になってこうして結婚式を挙げるなんて、あの時は想像できなかったな」
確かに、振り返ればいろんなことがあった。
永吉先輩には雪世を寝取られ、意味のわからない因縁をつけられたり、千華さんの元カレである春樹さんと赤江さんと騒動を起こしたり。
だが、今では啓太という可愛い子供も授かり、幸せに過ごして、この上なく贅沢モノだな自分は——と、しみじみと思い返していた。
「今日はちゃんとしろよ? まぁ、崇もやる時にはやる男だから、何も心配いらねぇか」
「ちょっと、慎司さん。変なフラグを立てないでくださいよ」
何たって俺は不幸呼び寄せ体質。
だから、いつ何が起きても問題ないと覚悟は人一倍してきたつもりだったが……。
「皆様、お待たせいたしました。只今から田中崇様と、千華様の挙式を行いますので、参列される方は席でお待ち下さいませ」
とうとう式が始まろうとしていた。
ちなみに息子の啓太と花笑ちゃんは千華さんと一緒にドアの向こうでリングボーイとガールとして待機中である。
神妙な顔付きで、今か今かとその時を待ち侘びていた。
ステンドガラス越しに差し込む太陽の光と、重厚な音を奏でるオルガンの讃美歌。次第に気持ちが昂ってくる。
「皆様、盛大な拍手でお迎えください」
ドアが開いた瞬間、純白のドレスを纏った千華さんが父親に連れられて入ってきた。
あまりの綺麗さに涙が溢れそうになる。
それに千華さんだけではない。啓太も花笑ちゃんも真剣な眼差しで後ろを歩いていた。
込み上がる感情を必死に堪えながら、俺は千華さん達を歩みを見届けていた。
——だが、その時だった。
「その結婚式、ちょっと待った!」
バンっと乱暴に開かれたドア。そこにいたのは永吉先輩と雪世の姿だった。
こいつら、懲りずにまた邪魔しにきたのか?
「その結婚式、意義ありィ! 俺と雪世の結婚式を邪魔したくせに、お前らが幸せな結婚式を挙げるなんて許せないぞ!」
「そうよ、絶対に許さないわ‼︎」
流石の乱入に、参列してくれた人達も戸惑いを隠せずコソコソと語り出した。くそ、アイツら……!
アイツらの結婚式がダメになったのは自業自得なのに、なんて最低な奴らだ‼︎
突然の出来事に戸惑って躊躇っていると、永吉の手が千華さんの腕を掴んでそのまま抱き寄せてきた。
「やっ……!」
「千華さん!」
「へへっ、せっかく乱入したのなら、花嫁を手籠にしないとな」
くそ、永吉の汚い手で千華さんを触るなんて、許し難い行為だ!
「ふはははははははっ! 中止しろ、今すぐ中止にして俺たちに謝罪しろ! 俺たちの結婚式を台無しにして申し訳ございませんでしたってなァ!」
「そうよ、床に額を擦らせて謝りなさい!」
相変わらず生意気なことばかり口にしていた永吉に、腕を掴まれてた千華さんはキッと睨みを聞かせて振り解こうと懸命に抵抗していた。
「無駄無駄ァ! 俺と雪世は地獄の果てまで追いかけてやるぞ!」
無駄に大きな声を張っていると永吉に対し、引っ張られていた千華さんは思いっきり足を上げて真っ直ぐに踏み下ろしていた。
彼女のハイヒールが永吉の足の甲にブッ刺さった。
「うぐ……っ、い、痛ェ‼︎」
「そして更に、股間にも一発!」
重たそうなスカートをぐわっと持ち上げて、そのまま股に向かって蹴り上げた。クリティカルヒットだったようだ。
「あがががが……っ!」
「だ、大丈夫? 救急車、誰かお医者様はいませんか!」
お前らみたいな犯罪者に手を差し伸べる医者がいるわけがないだろう!
悶絶する永吉を放っておいて、千華さんは俺の元へと駆け足で寄ってきた。清々しい、やり遂げた後の達成感に満ちた素敵な笑みを浮かべながら。
「千華さん、怪我は⁉︎」
「大丈夫だよ、あんな奴らに負けてたまるもんですか!」
ふんっと、頼もしそうに勝利の笑みを浮かべる千華さんを見て、とても俺達らしいなと感じていた。
そうだ、俺はこんな千華さんに惚れたんだ。
可愛いんだけど、少し不思議ちゃんて予測不可能な行動ばかり起こす、俺の大事な奥さん。
俺は千華さんを抱き上げて、そのまま連れて歩いた。会場は依然と騒めく人達、落ち着かない慌ただしい雰囲気だったが、それが俺たちの日常だ。
その後、永吉達はホテルマンに連行されてその場を去っていった。前の慰謝料も満額収められていなかったのだが、今回の分も追加で請求しなければ。
「皆さん、ご心配おかけして申し訳ございません。もう大丈夫です」
啓太達が運んでくれたリングを手に、指輪交換をして永遠の愛を誓い合って——……俺達は皆に見守られながら挙式を終えた。
———……★
「これで結婚式は愛でたく終了です」
結婚式、どうしても永吉達を乱入させたくて(笑)でもあっけなくて物足りなかったですね💦
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