第52話 ハッピーエンド(一部の人間を除く)

 こうして無事に披露宴、二次会を終えた俺達は、親しい友人達で集まって三次会を楽しんでいた。


 会場の場所は、なんと春樹さんの自宅だ。

 啓太や花笑ちゃんのことを思うと、居酒屋や飲み屋よりも気を使わずに寝かしつけられる場所がいいだろうと決まったのだ。


「信じられない……。学生時代、あんなに千華をいびっていた赤江と春樹の家でお祝いをする羽目になるなんて」

「羽織、うん。その気持ち分かるよ? でも今は子供達が仲良しだし、春樹も崇さんをリスペクトしてるからさ。私にはどうしようもないんだよ」


 そんなに不満なのか……。

 確かに千華さんの過去を思うと理解もできるが、自宅だというのに肩身狭そうにしている春樹さんが可哀想で哀れに見えてきた。ついでに面識がないはずの赤江さんと慎司さんも気まずそうに歪み合っているし。


 俺の知らないところで起きたことで、気まずくならないでくれ!


「それにしても永吉達にはビックリしたなー! まさか挙式の最中に突撃されるとは思っていなかったわ」

「バカなんでしょうね、きっと。俺もあんなのを尊敬していて遠慮していたのかと思うと、自分が情けなくて悲しくなります」


 今度という今度は容赦なく弁護士に相談して、きっちりと慰謝料を請求しなければ。きっと二度あることは三度ある。だがもういらない、こんな迷惑なアクシデントは。


「それにしても……千華も崇さんも色んなことがあったね。改めておめでとう」


 しみじみとお祝いの言葉を告げてくれた羽織さんの言葉に、思わず数々の思い出が脳裏を過り、薄っすらと涙ぐんでしまった。本当に色々あった。


 もし、自分が千華さんに出会えていなければ、こんなに世界が楽しく美しいものだと気付かなかったかもしれない。

 こうしてこのメンバーで集まることも叶わなかっただろう。


 ふと、千華さんに視線を向けると、はにかむように微笑み返してくれた。

 高嶺の花だった彼女と出逢って、ネチネチ前戯野郎から美女の彼氏に昇格して、こうして陽キャ達に囲まれて祝福されて……。


「みんな、本当にありがとう。俺がここまでこれたのも皆さんのおかげです」


「な、何だよ、崇! 急に改ってお礼を言われると照れるじゃねぇか!」

「そうよ、恥ずかしいからやめてよー! それに一番頑張ってきたのは崇さんと千華でしょ? 私たちの方こそ感謝したいわ。千華を幸せにしてくれてありがとう」


 羽織さんの言葉に春樹さんと赤江さんは気まずそうに明後日の方向を見ていたけれど、親友である彼女の言葉はありがたく頂戴した。


「あー……うん、俺も。千華の相手が崇さんだったから諦めがついたのはあるかなー? ——って、羽織、やめて? その『テメェじゃ誰相手でも敵わねぇよカスが!』って目は。実際、崇さんはスゲェもん。千華への愛もだけど、性根が良い人なんだよね」


 ——うん、なんだ皆。結婚式だったからって、そんなに煽てなくてもいいのに。どんな顔して聞けばいいのか、段々分からなくなってきた。


「うんうん、こんなにぶっ飛んだ俺にも愛想を尽かさずに付き合ってくれる男だからね!」

「慎司さんに至っては、何度も見限りたくなりましたけどね」

「そんな殺生な! なんで俺にだけ毒舌吐くん! 俺も褒めてんのに‼︎」


 いや、慎司さんだけテイストが違うからね?

 褒めるならもっとちゃんと褒めてくれ。


 一方、そんな様子をニヤニヤしながら眺めていた千華さん。満更でもない表情で、距離を縮めて——……。


 ん、なんか近くない?


 皆の前だというのに人目も気にせずに抱き付いてきたので、反射的に身構えてしまった。


「ち、千華さん! 待って、ここは春樹さん家!」


 そんな制止の声ですらお構いなしに、力一杯抱き締めてきた。


 う、嬉しいけど、今じゃない!


「私も崇さん、大好き♡」

「あ、ありがとう! でも人前ではそういうのは……ね?」


 ほら、皆の視線が茶化しに入っている!

 やめてくれ、所詮俺の根っこは隠キャのネチネチ前戯野郎なんだから!


「結婚してからも、ずっとずっと変わらず仲良くしようね♡」

「分かったから、ひとまず今は離れてくれェ!」


 俺の奥さんはとても可愛いけど、やっぱりどこかズレている不思議ちゃんだ。

 今も、きっとこれからも彼女に振り回される日々を過ごすのだろう。


 ———……★


「だが悪くない。望むところだ、コンチクショー」

「皆様、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました♡」



 HAPPY END……★(一部の人間を除く)


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