第一章 永吉・雪世……勝手に蟻地獄ザマァ編
第4話 慎司先輩、再び……
前に元カノの状況を報告してくれた恩人(?)慎司先輩と久々に会うことになった俺は、千華さんを連れて出向くことにした。
先輩と会うのは実に一年ぶり。
そう、慎司先輩にとって俺は哀れで可哀想なサレ彼のままなのだ。
「な、な、な……! 崇、お前、本当にお前なのか⁉︎」
驚きのあまり、指差した失礼な人差し指がワナワナと震えていた。
それもそうだろう。
昔のムサかった眉毛放置状態の俺ではない。顔のムダ毛も剃り上げ、洗顔の後にキッチリ化粧水をつける習慣を身につけた男へと変貌を遂げたのだ。
「——っていっても、全部彼女のおかげなんですけどね。慎司さん、紹介します。彼女の千華さんです」
「初めまして、
「な——っ⁉︎ び、美少女! お前、いつの間に彼女……!」
色々と驚愕され続けた慎司さんは、オーバーリアクションの連続で意気消沈気味だった。
「くっ、お前……! なんて腑抜けた面を晒してんだよ! え、付き合ってどれくらいだ? っていうか、本当にいつの間に彼女出来たんだよ!」
「そろそろ付き合って半年くらいかな? いや、正直俺が一番信じられないんですけどね」
「そんなことないよ、崇さん。こんなに優しい人、今まで女性が放っておいたのが不思議なくらいだから」
息を吐くように惚気る二人に、ますますワナワナと震え出す慎司先輩。
「いや、崇がいい奴なのは俺も知ってるけどさー! それよりこの垢抜けっぷりだよ! まるで別人じゃん! 何でこんなことになってんの⁉︎」
「それは全部、彼女がしてくれて……」
男は伴侶に選んだ女性で人生が決まると言っても過言ではないと実感したものだ。
千華さんと付き合ってからはプレイベートも仕事も順調過ぎて怖いくらいだ。
「いやいやいや、ズルい! でもおめでとう! お前らが幸せそうで何よりだよ!」
嫉妬で嘆きながらも、しっかり祝福してくれるのが慎司さんらしいと思いながら、俺は深々と「ありがとうございます」と頭を下げた。
「それにしても、本当別人のようだな。え、もしかしてお前って素材は良かったってこと?」
小学生の頃から病弱で床に伏せがちだった母の介護に明け暮れていた日々。確かに自分のことはそっちの気だったのは否定できない。
だが、たんに美容院に行っただけでは、こうはならなかっただろう。
俺のポテンシャルを最大限に生かしてくれたのは、他の誰でもない千華さんだ。
「私、元々ネイルとかそういうことが好きで……。男の人のスタイリストにも興味があったんです」
そういう千華さんの髪も、毎日アイロンで可愛く仕上げている。今日もクルクルの後毛が可愛いポニーテール仕様だ。
白いシャツにネイビーのワンピースを合わせて、可愛くて色っぽくてあざとい。
「いいな……俺もこんな彼女が欲しい。お前マジで羨ましいわ。元カノの時は全然羨ましくなかったのに、今は心底羨ましい」
「俺も元カノを寝取れてもそこまでショックじゃなかったけど、千華さんを寝取られたら生きていけないほどツラいと思います」
——って、今更元カノのことなんてどうでもいいのだが。
だが、今回慎司さんに呼び出されたのは元カノと寝取った男、永吉先輩に関することらしい。
「あー……本当はこんなのをお前に渡すのってどうかと思ったんだけどな? アイツら、結婚するらしいよ?」
まさかの報告に、多少の騒めきが胸中に生じた。あの二人……続いていたんだ。
「レストランを貸し切って二次会みたいにお祝いをするらしいんだけど、お前はどうする?」
「どうするって?」
「崇の分の招待状、俺が預かってるんだ。参加する? それとも欠席するか?」
今更、元カノに何の未練もないが、同時に祝う気持ちも起きなかった。
何で俺が二人を祝福してやらないといけないんだ?
「分かる! すごーく分かるぞ、お前の気持ち! けどなー……一応元バイト仲間は皆、参加するらしいんだよ。お前だけハブるのも、なぁ?」
「いや、そこはハブって貰って結構なんですけど。今となっちゃ、慎司先輩以外に連絡取り合ってる奴はいないんですけど」
それに元同僚の間では、俺はネチネチ執拗前戯野郎だ。参加したところで居心地は最悪だろう。
「俺も最初はそう思ったよ? けどさ、勿体なくないか? 今のお前、どう見てもイケメンじゃん」
ニヤリと笑みを浮かべた慎司さんを見て、俺は怖じけるように身を引いた。
「崇はさ、永吉と雪世ちゃんに悔しさを感じないのか? 俺は悔しかったよ? 仲のいい友達を馬鹿にされたみたいでさ。俺は千華ちゃんと一緒に参加して、アイツらに幸せになった崇を見せつけてやりたい!」
——んんっ? み、見せつける⁉︎
「今度、二人の婚約祝いをするらしいんだよ。その時に見せつけてやらねぇ?」
「いや、俺はそんなつもりで千華さんと付き合ったんじゃないし……。そんなことをしても意味がないっていうか」
「えぇー、俺が悔しいんだよ! 崇のことを馬鹿にしたアイツらにザマァって言ってやりたいんだよー!」
想定外の提案に、俺と千華さんは苦笑し合うしかなかった。
正直、悪いことをしようとしても悪いことしか寄ってこない気がするのだ。
できることなら関わりたくない……それが俺の選択なのだが、どうやらそれでは慎司さんの気が済まないらしい。
「一回、一回でいいから! なぁ?」
「何すか、その先っぽでいいから
「え、崇さんと慎司さんって……そう言う関係?」
いや、こんなところで的外れなポンコツ発言はやめてくれ、千華さん。
とりあえずこの返事は一旦保留ということで……この日の飲み会はお開きとなった。
———……★
「勿体ねぇー! 俺なら盛大なザマァをお見舞いしてやるのに!」
「そんなことだからイケメンのくせに彼女が出来ないんですよ、慎司さん」
5月14日付、★ありがとうございます!
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個人的に、ゾロ目に立ち合うことができる作品は読んでもらいやすい傾向にあるみたいで、コチラも777や888に遭遇しました^ ^
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