第8話 憎くて仕方ない相手なのに、何故か相手は俺に気付かない
『お前、このまま童貞のまま死ぬとか悲しすぎないか? 俺が女の子を紹介してやるから頑張れよ!』
そう言って紹介してくれた彼女を寝取って、婚約した悪代官並の悪どさを備えた男、永吉。
その男が偶然、目の前に現れたのだ。
「なぁ、慎司。前に頼んでいた田中の分の招待状だけど、ちゃんと渡してくれたか?」
隣に本人がいることに気付かず、永吉は慎司さんの隣に座ってきた。
そもそも何故気付かない⁉︎
今、お前が話題にしているのは、俺! 田中崇はここにいる!
「えーっと、とりあえず渡したは渡したけどさ……」
「マジィ? サンキュー! どんな反応だった? 泣いた? もしかして泣いた?」
——は?
あまりにも悪気なく聞いてくる最低なことに、俺も慎司さんも口角を引き攣らせながら固まった。
「流石に直接渡すのは可哀想だと思ったんだけど、それなら直に見たかったなー! アイツ、俺に雪世を寝取られて引き篭もりになったんだろう? なぁなぁ、その時の詳細を聞かせてくれよ、プリーズ!」
少なくても一緒にバイトをしていた時には尊敬して慕っていた永吉先輩だったが、ここまで性悪で最低野郎だとは気付かなかった。
普段は軽い口を叩く慎司さんも呆れきって言葉を失っている様子だったが、横目で俺を見ては何かを閃いたかのようで、ニヤリと笑みを浮かべて口を開き出した。
「もう、そりゃー……もう大泣きも大泣き! あまりの絶望っぷりにワンワン泣き喚いて、もう見ていられなかったなー」
——なっ⁉︎
俺がいつ、ワンワン泣き喚いたと⁉︎
嘘も大概にしろ、俺の名誉のためにも訂正しろ!
だが永吉先輩は慎司さんの言葉にご機嫌になったようで、ニマニマと言葉を続けてきた。
「そっかー、まぁ仕方ないよな。アイツみたいな底辺の隠キャじゃ、この先女の子と付き合う機会なんて皆無だろうし」
見たことがない悪意に満ちた表情に、ただただ言葉を失っていた。この男、本当に永吉先輩か?
それなりに尊敬していた人だったが、こんなに性悪だとは思ってもいなかった。
別な意味で泣きそうだ……。
俺は、こんな男を尊敬していたなんて。
「でもな、崇はいい奴なんだよ。尊敬する先輩と可愛い元カノの晴れ姿を見届けるために出席するってね。流石に肩身が狭いから、知り合いを一人同伴したいと言ってたけど」
「あははは、マジか! とんだドMだな、田中! オッケー、オッケー……んじゃ、アイツの席を用意してやるよ。とっておきの場所をな」
そう言って奴は声高々に去っていった。
「——ふぅー。永吉の奴、全く崇のことに気付かないままだったな。久々に会ったけど、あんなに性格悪かったけ? まぁ、いい奴だったら寝取った男を結婚式に招待したりしないよなー」
慎司さんの言い分はもっともだ。
しかし、おかげで目が覚めた。確かにこれは一泡吹かせてやりたくなる。
「慎司さん。どうしたら……アイツらにザマァをお見舞いすることができますかね?」
覚悟を決めた俺に慎司さんは愉快な笑みを浮かべ、気分良さそうに頬杖をついた。
「お前がひよるような意気地なしじゃなくて、安心したよ。なぁに、せっかくなら皆様に二人のことを教えてやろうじゃないか。ただし、アイツらのような陰険ではなく、正々堂々と清々しい方法で!」
まるで新しいオモチャを与えられた子供のように、面白そうに楽しんでいる慎司さんも十分性悪だと思ったが、あえて何も言わずに言葉を飲み込んだ。
———……★
「ところで慎司さん。あなたは俺のいないところで俺のことをどんなふうに話しているんですか? 場合によってはそっちの方がトラウマなんだけど」
「いやいやいや、俺はお前の味方だよ? 親友を悪く言うわけないだろう?」
「………(信じられない)」
5月18日付、★ありがとうございました!
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とうとう「明日、その花」のフォロワー数と★の数が逆転してしまいました。それぞれに特徴のある作品なので、それぞれに楽しんでいただければ幸いです✨
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