第7話 この不運、俺は神に見放されている
それから数日は用心していたが、非通知が掛かってくることはなかった。
単なるそういう類の業者の仕業か、他意のない嫌がらせか。
彼女をターゲットにしていなければ何だっていいのだが、なぜか胸騒ぎは消えることなく燻り続けていた。
「心配性なんだよ、崇さんは」
「千華さんは楽観視し過ぎ。万が一のことがあったら、油断していた自分のことが一生涯許せない」
お昼時、俺達はお気に入りのベーカリーショップでパンを購入して、近くの公園のベンチで食べることにした。
季節はもうすぐで春になる。まだ余寒はあるものの、満開に近い桜の花に惚れ惚れと眺めていた。
「心配する気持ちは分かるけれど、せっかく楽しく過ごしているんだから、余計なことを考えずにいきたいな」
テイクアウトしたカフェオレを飲みながら、千華さんは肩にもたれて甘えてきた。
確かに、どうせ過ごすなら余計な心配はしたくない。彼女のことだけを考えて過ごせたらどれだけ幸せだろうと思うけど、二人して甘い考えだと足元をすくわれかねない。
「崇さん、また眉間に皺がよってる。ほら、肩の力を抜いて」
そう言いながら耳たぶの辺りに唇を押し当てて、甘い吐息をかけてきた。
いや、そういう時は労うように肩を揉むのが正解なのに?
耳まで真っ赤にしながら振り向いた時には、意地悪な笑みを浮かべて満足そうに口元を押さえていた。
「お花見も十分堪能したし、パンを食べ終わったら帰ろっか」
一人だけサッサと食べ終わって、ズルい。
サクサクのクロワッサンを口いっぱいに頬張って、俺も後を追うように立ち上がった。
ちなみに今日は千華さんが仕事の日なので、職場まで送って帰る予定だ。彼女は送り迎えはいらないと言っていたが、用心するに越したことはないだろう。
勤務地であるドラッグストアに着いた俺は、ご機嫌に店内に入っていく彼女を見送りながら手を振った。
さて、この後はどうしようか。
スマホを見ながら考えていると、珍しく慎司さんからメッセージが届き、暇なら遊ばないかと声を掛けられた。
どうせ千華さんのバイトが終わるまで時間を潰そうと思っていたところだ。二つ返事で返信すると、駅ビルのセレクトショップで待っていると返ってきた。
「それにしても、一人で駅ビルに来るとか久しぶりだな」
こんなオシャレなショップが建ち並ぶリア充御用達のアミューズメントなんて、少し前の俺では到底近寄れなかった。
いや、今でも拒否反応が出るほどだ。
少しの視線を感じただけで「アイツ、ダサいくせに」とか「場違いな奴がいるなw」とか蔑まされている気分になる。
実際、自分で思っているよりも回りに関心を示す人間は少ないのだけれども。
隅の方でセールの服を眺めながら待っていると、店舗で買い物を済ませた慎司さんが声を掛けてきた。
「よっ、崇! どこのイケメンかと思ったらお前だったわ」
「………胡散臭いチャラ男になっちゃいましたね、慎司さん」
「え、俺がチャラ男? お前、目、悪くなった?」
半ば呆れながらも彼と一緒にコーヒーショップに入って注文を済ませた。そして話題はやはり、永吉先輩と雪世のことだった。
「やっぱりザマァをお見舞いするべきだと……」
「いや、だから俺は——」
彼女に心配を変えたくないから嫌だと、何度言えば伝わるだろう?
「だぁー、勿体ないって! こんなイケメンになって、可愛い彼女も出来たのに? お前って何を楽しみに生きてんの?」
「ザマァを楽しみに生きてる方が人間としてアウトですよ?」
せっかく切れた縁に自分から突っ込む方が余程あり得ない。頬杖ついてゲンナリしている時だった。
「——慎司? うそ、もしかして慎司じゃねぇ?」
同じくカフェでコーヒーを購入していたカップルが声を掛けてきた。聞き覚えのある声。あまりの懐かしさに胃がムカムカしてくるほどだ。
あまりにも出来たタイミングに、目の前の先輩を睨みつけたが「違う違う!」と全力で否定された。
これがワザとでなければ、何て不幸なのだろう?
やはり幸福保存量の法則は実現するのかもしれない。
「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。全然変わらないな、慎司は」
「一年前だっけ? お前は随分変わったね、永吉。幸せ太りか?」
——そう、あれだけ会うのを拒否していた張本人と再会を果たしてしまったのだ。
あまりの己の不運さに嘆くしかなかった。
———……★
「…………ハァ。最悪だ」
5月17日付、★ありがとうございます✨
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また昨日の総合週間の順位が204位でした!
皆様のおかげです、ありがとうございます✨
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