第55話 思っていたのと違うんだけど? 甘々あり

 ——結局、俺と真魚は結婚することになるのだが、そこまでの過程はスムーズとは言い難いものだった。


 正直、俺も真魚もそれぞれいい年齢としで、高校生の時のような初々しさなんて持ち合わせてなくて仕方ないと諦めていた。いや、むしろ持っていた方が恐いほど、二人の間には時間が経ち過ぎていたのだ。


 だからさ、いざって言う時にあんな態度を見せてきた真魚に、戸惑ってしまったのはやむ得ないと思うんだ。


 彼女が予約していたホテルに入るまで、腕にしがみついてイチャイチャしていた真魚。だけどいざ、密室で二人きりになって唇を重ね合っていくうちに——彼女の鉄壁の病みという鎧が欠けていったのだ。


「——……? 真魚?」

「んっ、んン……っ、ん」


 それまで勝気に八重歯を見せていた彼女が、トロッととろけた濡れた表情を垣間見せて、そのギャップに胸元を鷲掴みされたような気分だった。


 俺の胸元の服をギュッと掴んで、思いっきり俯きながら歯を食いしばっていた。


「なっ、なんでこんなキスを」

「こんなキスって?」

「こんな、気持ちがいいキス……! いつの間に覚えたの⁉︎」


 顔を真っ赤に染めて、涙目になりながらも必死に訴えてくる彼女が可愛くて堪らなかった。


 数年前も、そして再会した時も。

 あんなに強気で支配していた彼女が見せた弱い一面に、胸中がざわついた。


「真魚、俺達もういい歳なんだよ? それなりに経験していてもおかしくないだろう?」

「どう言う意味? だって慎司くんは私のモノになるって言ったでしょう?」

「え?」


 言ったのか? 俺の中では曖昧なまま終わったと思っていたんだけど、違ったのか?


「だから私は、ずっとずっと慎司くんのことだけを想っていたのに——。もしかして慎司くんは裏切ってたの? 本当に私以外の人ともいやらしいことをしていたの?」


 ギロっと、鋭く睨んできた彼女の眼光に、腕中の鳥肌が立った。


「だって、何も言わずに消えちゃうんだから……終わったと思うのが普通だろう? ちゃんと応えなかった俺に愛想を尽かしたんだと思っていた」


 すると、真魚の平手が思いっきり頬をはたいた。な、何で?


「バカバカバカ! それでも私を想い続けるのがアンタの役割でしょ! 何なら追いかけてくるのを待っていたのに!」

「な……っ!」


 一般の高校生に海外まで追いかけてこいだなんて、無理にも程がある!

 そもそも真魚がどこに行ったのか、住所も連絡先も知らなかったし、俺のことなんてどうでもいいと思っていたんだ。


 それはあまりにも勝手過ぎる。


 俺は真魚の顎骨に親指の腹を添え、そのまま唇をなぞるように舌を這わせた。ビクッと、大きく震えた彼女の身体を押さえつけて、自由を奪った。


 そもそも小柄な真魚と俺とじゃ、歴然な力に差があるのだ。少し抑え付けただけで簡単に黙らせることはできるのだが、それは俺が望んでいることじゃないから。


「痛い、離してよ慎司くん」

「——ん、ヤダ。だって真魚、逃げるでしょ? 都合の悪い展開になったら、逃げるじゃん」


 俺の問いに黙り込む。

 そうだよねー、そうなんだよ。


 分かる、とっても分かるよ、真魚ちゃん。

 だって俺も同類。恐いから答えを聞く前に逃げて、そのまま現状維持のまま都合のいい未来を想像する。

 そしてが真魚にとっての現実になっていたんだろう。


 彼女の中の俺は、真魚にとっていい彼氏のままだったのだろう。従順でアホみたいに尻尾を振るご主人大好きなペット犬。


「真魚、俺はもう、何も知らない欲求不満な男子校生じゃないんだよ。それなりに経験を得た……どうしたら女の人が悦ぶかも知ってる悪い大人なんだよ」


 細い両手首を片手で掴んで、腕の中に収まっている真魚に貪るようなキスを続けた。

 目尻を濡らした涙にも気付いていたが、そのまま行為を続けて快感を分かち合った。


「知らな……っ、そんな慎司くん知らない……っ! 離れてよ、大っ嫌い! 嫌いなんだから!」

「あれぇ? さっきは救いようもないど変態のココをトロトロにとろけさせてあげるって言ってたのに? 嘘吐き真魚ちゃん、悪い子だねぇ」


 鋭く睨み付けた彼女の目に、少しだけ力強さが戻った。ゾクゾクする……やっぱ真魚はこうでないと。

 でもそれと同時にひれ伏せたくなる。この生意気な態度を——……。


「このワンピース、前開きでいいね。真っ白で穢れを知らない真魚ちゃんにとっても似合ってる。下着は何色なんだろう……透けちゃうから、やっぱ白?」


 一つ、一つ、ゆっくりとボタンを外していく俺に「イヤ……っ!」と、身体を強張らせて。必死に踠いているけれど、全部意味がない。むしろこれで抵抗しているつもりなんだから可愛過ぎる。


「離してよ、嫌い、大嫌い! これ以上私に触れたら、もっと嫌いになるからね!」

「えぇー、俺のこと好きになっちゃうの間違いじゃない? あ、キャミソールは白。ってことは、やっぱり白の可能性が高いかな?」

「やだ、ヤダヤダ……んン……ッ!」


 またしても彼女の唇を塞いで、執拗に舌を絡ませた。漏れる甘美な声。ビクビク震える身体。


「気持ちいいね、真魚ちゃん」

「き、気持ちよくなんてない……っ!」

「そう? やっぱり真魚ちゃんは素直じゃないねー」


 シャツを捲り上げて、レースが施された淡いピンクのブラジャーを露わにした。真っ白な肌と膨らみに興奮が抑えられない。

 自由な方の指先で肌の柔らかさを堪能しながら、ゆっくりと沈ませた。

 隠されていた頂きは、少しだけ感触が違っていて、簡単に指先で弄ぶことができた。


「ん……ッ、あっ!」


 身体をモジモジとよがらせて、必死に顔を歪ませて、快感に耐えているのが分かる。堪らない、堪らない……っ、俺はキスを続けながら、彼女の身体も堪能し続けた。


「ん、ふァ……っ、し、慎司くン……っ」

「——真魚ちゃん……綺麗になったね。会いにきてくれてありがとう。俺のこと忘れないでくれてありがとう」


 そして彼女の腹部に指を伸ばして、そのまま——……。



 だが、この時にある違和感が襲っていた。

 彼女のあの部分は確かに濡れていた。うん、感じていたはずなのだ。


 けど、指一本ですらギリギリというか、ギチギチというか。

 うん、まさかなと思いつつも中々解れなくて、とてもじゃないが入れられる雰囲気じゃなかった。


 他の女性と比べるのはいけないと思いつつ、そう……真魚ちゃんは少し、分泌が乏しい傾向にあったようだった。


 ——おーっと、分かる。分かるぞ、言いたいことは!

 俺の前戯が足りない、もしくは下手くそだと言いたいのだろう?

 否めない、それは否定は出来ない! だが、彼女を少しでも気持ちよくさせてあげたいと思っていた俺は、念入りに施したのだ。


 それでも結局、俺のモノが入るほどの準備は整えられず、言葉通りの先っぽだけ——という結果に終わってしまった。


「———え? これがセックス? 私と慎司くん、ヤッたの?」

「や、ヤッたー……って言えるのかなァ? これは」


 気持ちの上では経験済みだろう。あれだけ交わり合ったのだから。だが真魚の初めてが貫通されたのかと聞かれたら、微妙である。


 何とも言い難い空気が漂う中、俺達の初体験(仮)は幕を閉じたのであった。


 ———……★


「けど可愛い、強気だった真魚ちゃんが弱々になるの、めちゃ可愛かった……!」


ドM設定な慎司がS男子に(笑)

拒む真魚が可愛かったんですよ……(土下座)

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