第40話 何で何で何で⁉︎【胸糞有り】

 赤江視点……★


「何で、どうして? 私と千華さんで何が違うというの⁉︎」


 初めて春樹さんを見た時、あまりにも理想的な容姿に一目惚れして、スマートな立ち振る舞いに彼しかいないと確信した。


 白馬の王子様……なんて言ったら、乙女過ぎると言われるかしら?


 でも私にとって、春樹さんはとてもキラキラしていて眩しい存在だった。



 だけど彼にはとっても可愛い彼女がいた。

 東千華さん。家がご近所同士で小学生の頃からのお付き合いだとか。


 恋人同士になったのは高校に入ってから。

 関係はまだキス止まり、身体の関係はない。どうやら千華さんの方が渋っているとか。


 だから私は、隙をつくように春樹さんに近付いた。いくら白馬の王子様とはいえ、春樹さんも盛りに盛った年頃の男子。

 案の定、すぐに関係を持つことはできた。


 でも、身体は容易く手に入れることができても、心までは手に入れられなかった。よくある三文芝居の台詞みたいで嫌気がさしてしまうけど、結局私も遊びの女だったわけ。


 本当にありえない。

 どうして? 私は身体まで差し出したのに、無駄に貞操概念ガチガチの女に負けなければならないの?


 大体私の方が春樹さんを想っているのに……あんな女に負けるなんてありえない。

 胸だって、器量だって、顔だって性格だって、愛も、全部、私の方が優っているのに!


 だから私は嫌がらせを始めた。

 さっさと千華さんが離れてくれれば、きっと私に振り向いてくれるはず。

 現に春樹さんも私の行動を否定しない。だからこれが正しいんだ。


 そう思っていたのに——……私が妊娠した時、悪魔春樹さんの牙が向いた。


「え、子供がデキた? 待ってよ、勘弁してくれよ……。無理だよ、育てられるわけがないよ」


 悩む素振りも見せずに、即答で答えた春樹さんに、私は口角を引き攣らせながら呆然としていた。


「だって赤江、ピル飲んでるって言ってたじゃん? あれ嘘だったの? マジで引くわー……」

「え、待って? 春樹さん……? あの、私、あなたの子供を妊娠したのに」

「それって本当に俺の子供? 本当は他の男とも関係持っていたんじゃない?」


 自分が浮気しているからって私まで疑うなんて。ショックで目眩がした。こんなの酷過ぎる。


 私はお腹を摩って守るように少し屈んだ。


「この子は正真正銘、春樹さんと私の子です。私がどれだけあなたのことを想っているかなんて存じているじゃないですか!」

「知るかよ、そんなん。俺と赤江は別人なんだし。はぁー……本当に最悪だな。初期の状況ならまだ負担は少ないんだろう? なら早く堕ろそう? 回りにバレる前に」


 あまりにも無責任な言葉に、カッとなって差し伸べられた手を叩き払ってしまった。


 信じられないと言葉を失った春樹さん。

 その絶望の顔を見て、しでかしたことを悔やんだ。そんなつもりじゃなかったのに!


「ゴメンナサイ! そんなつもりじゃなくて、私は! だって、身籠ったのに。私が春樹さんの赤ちゃんを身籠ったのに、何でそんなひどいことを言うのォ!」


 妊娠=勝者。

 その時の私はそう思っていた。


 だけど春樹さんは違った。

 彼にとっては、本命千華さん以外がどうなろうと関係なかったのだ。


「赤江、お前もさぁー……遊びだって割り切ってるなら、自分の立場を弁えろよ。迷惑なだけじゃん、そんなの」


 私の知ってる春樹さんは、そんな言葉を使わない。


「俺が大事にしているのは千華だけなんだ。お前がいくら頑張ったところで、俺の気持ちは変わらないし」


 私の春樹さんは、そんな冷たい目で私を見たりしない。


「俺の未来にお腹の子供コレはいらないから。だからちゃんと堕してね」


 私はずっと夢を見ていたみたいだ。

 自分にとって、とっても都合のいい甘い夢を。



 ———……★


 少し短くなってスイマセン。

 女性をお前呼ばわり、赤ちゃんをコレよばり。もう救いようもない男ですね、春樹は……。

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