第27話 失明の恐れ

 お昼過ぎになりフルールの意識は戻ったが···暗くて何も見えないと言っている。

 マリエラはフルールの容態を直ぐに使用人に告げた。使用人は慌てて男爵の執務室に駆け込み、フルールの容態を告げ、再び医者の手配をした。


 医者が到着し、フルールの容態を確認していた。

「見えないだけなのかい?耳は聞こえる?何か食べたの?」

「はい。見えないだけで、耳も聞こえるし、ご飯も少し食べました」

「···そうか。まだ、起きたばかりだから、明日になればもう少し見えるようになるかも知れないからね。お薬を飲んで、ご飯を食べるんだよ」


 医者はマリエラに手招きし、部屋の外まで呼び寄せた。

「あの娘はこのまま、見えるようにならないかもしれないよ」

「えっ···それは···どうしたらいいのでしょう?」

「少しの間は安静にして、薬を続けてみてくれる?」

「はい、わかりました。家には帰れますか?」

「どうだろう?男爵に相談しないといけないね。今から、行ってくるよ」

「お願いします」

 マリエラは医者に頭を下げ、直ぐにフルールの元に戻った。


 医者は男爵に話をしていた。

「男爵様、困ったことにあの娘は失明するかもしれません」

「なんだと!家に帰せないじゃないか···」

「私が親御さんに説明に行きましょうか?」

「いや···。この事は他言無用だ」

「仰せのままに」

「治療は続けてくれ」

「はい」

 男爵は頭を抱えていた。男爵領の中心の街ノクスの建設ギルドには、強く出られない。

 男爵の地位を持っても、ギルドを軽くみることは出来ない。


 男爵はジャンにフルールをもう少し預かるという手紙を書いて、郵便係に渡した。


 男爵はスランに薬を売った商人を探そうとしたが、スランも平民である商人の容姿や名前も覚えておらず、何人も出入りしている商人を特定することは難しかった。


 フルールは熱が上がったり下がったりを繰り返し、視力は戻らず一週間が過ぎようとしていた。

 誕生日会に呼ばれていた楽団や劇団員も、既に皆帰っていて、周りは静かになっていた。

 フルールは家が恋しくなり、夜になると泣くようになっていた。マリエラは慰めていたが、精神的にも限界だった。


 男爵はフルールが毒を飲まされた事が外に漏れるのを恐れていたので、家に帰すことを渋っていた。

 跡継ぎのポルトや結婚前のスランに悪い評判が流れるのを止めたかった。

 男爵はこのまま密かにフルールを隠そうと思っていた。


 マリエラは嫌な予感がしていたので、顔見知りになった商人に、ジャン宛の手紙を言付けていた。

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