第42話 兄ペテルの思い

 建築家を目指しているペテルは、王都の専門学校に入るためには寮に入ることになる。

 ペテルは母とフルールが心配だったか、しっかりと勉強して技術を身に付け、自立を目指していた。

 出来ればギルドで仕事をし、母と妹の三人で暮らしたかった。


 妹はやりたい事をみつけ、従者のマリエラと姉妹のように過ごしていた。軽い嫉妬を感じたが、マリエラにはとても感謝し好感が持てる。

 顔に傷を負い、家に閉じ籠り気味だった妹だったが、今は別人のようにイキイキとしている。

 自分からみてもフルールの踊りは人を惹き付けるものがあった。妹のやりたい事がみつかって本当に良かった。これからも応援したい。


 マリエラからの手紙で男爵邸での事故を聞かされ、心配で、直ぐにフルールのもとに駆けつけたかった。

 マリエラの手紙には私がフルール様を支えるので、シオン様は勉強を続けて欲しいと書いてあった。マリエラの気持ちが支えになった。

 妹の失明の危機は免れたようだが、事実を隠したい男爵はフルールに追手までつけたらしい。

 信用できる大人が付いてくれていたようだったが、マリエラの手紙を何度も読み返しては、心配を重ねていた。


 ペテルは、フルールたちが母の幼馴染みの家や伯爵領の友人の家に無事に着いたと連絡がある度に、不安がなくなっていき、勉強に打ち込むことができるようになった。

 来年には専門学校を卒業し成人を迎えることになる。

 ノクスの街を出てギルドで収入を得ることができれば、フルールたちと一緒に住むことが出来るかもしれない。


 リュードの街で会った時のフルールは、まだ完全に視力が戻ったとはいえないが、日常生活を送るのには不自由してなかった。

 フルールが気にしている顔の傷も年々薄くなっているようで、踊りのお陰で表情が豊かになり、本人が気にする程ではないと思っている。


 あの年の春咲まつりにサルタと運命のような出会いがなければ、フルールはまだ自分の部屋から出てこれなかったかもしれない。

 家族だけでは支えられなかっただろう。

 マリエラが従者に就いてくれたことも大きな要因だった。男である兄としては腫れ物にさわるかのように何も出来なかったと思う。


 多感な時期になると家族以外の者との信頼や尊敬、違う角度からの物の捉え方や考え方など家族だけでは補えない、精神の成長が大事なのかもしれない。


 これからも兄としてフルールに出来ることは何でもしたいと思っている。

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