第41話 シオンの思い
ノクスの街でパン屋の見習いをしているシオンは、フルールに会えなくなって寂しい思いをしていた。
フルールから手紙を受け取り、オールリウス伯爵領まで、会いに行きたかった。
親方や女将は心配をしてくれたが、シオンの沈んだ気持ちはなかなか晴れることはなかった。
しばらくしてパン屋に通ってくる商人が、行商の手伝いをしてくれないかと、シオンに話を持ちかけた。
パン屋の親方は渋い顔をしていたが、将来の役に立つならと、シオンの希望を優先してくれた。
シオンは直ぐに返事が出来なかった。
親方と女将には雇ってもらった恩がある。
フルールがノクスの街に帰ってくるのを待っていたい。
考えを巡らせていると、フルールの言葉が頭に浮かんだ。
『私、伯爵領で頑張ってみたいの』
自分よりもひとつ下の女の子が親元を離れ、踊りで更なる高みを目指している。
自分も負けていられない。
パン屋の仕事は好きだか、シオンは新しいことに挑戦してみたくなった。
パン屋の親方と女将は、辛くなったらいつでも帰っておいでといって、快くカイトを送り出してくれた。
シオンはメリディの町の実家に、今まで貯めていたお金と、ノクスを離れ行商の勉強をすることになったという手紙を送った。実家とパン屋には定期的に手紙を送るつもりでいた。
シオンはフルールの実家を訪れオリビアに会い、行商の勉強でノクスの街を離れる事を告げていた。
オリビアに激励され、小さなクレマチスの刺繍が入った手作りの鞄をもらった。
温厚で親しみやすい性格のシオンは、行商先でも人気があった。
商人としての知識を覚えるのが早く商才もあり、直ぐにお客とのやり取りも任せてもらえるようになった。
シオンはフルールに会えない寂しさを、仕事の忙しさで紛らわし、行商の仕事に打ち込んでいった。
滞在先が長くなる時はフルールに手紙を書き、返事をもらうことが出来た。
以前からフルールにプレゼントをしたかったシオンは、行商先でクレマチスの花の髪飾りを手に入れていた。
早速伯爵領にいるフルールに髪飾りを送った。
シオンは髪飾りを着けたフルールに、
「かわいいね。良く似合うよ」と言いたかった。
シオンが送った髪飾りを着け、かわいい笑顔のフルールに会うのを楽しみにしている。
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