第40話 ティアオ劇団

 伯爵は謁見室では声も出せずにいた娘が、劇団に興味を持ってくれて思わず笑みがこぼれた。

 早速使用人に、サルタたちを劇団の寮があるところに案内させた。

 伯爵邸のあるところから馬車で約10分の所にある劇団の寮と劇場は、リュードの街の東側に位置していた。


 リュードの街の中心部は商業地帯になっており、大小様々で数多くの商店や飲食店が立ち並び賑やかで活気のある場所だった。

 東側は雑貨や衣料品店など大きな店構えの店舗が多くあり、少し落ち着いた雰囲気の場所になっている。


「こんにちは」

「こんにちは、伯爵様から聞いております。どうぞこちらに」

 フルールとマリエラは元気よく挨拶し、劇団員の人は団長のいる部屋まで案内をしてくれた。

 マリエラはすれ違った劇団員の中に顔見知りの人が数人いてびっくりしていた。聞き覚えのある声の主は、ドゥラーク男爵のパーティーに呼ばれた人たちだった。まだはっきりとは見えないフルールだったが、「元気になったのね」と言われ、劇団員の人たちに「はい」と答えていた。


「ようこそいらっしゃいました」

 ティアオ劇団の団長メネスは、サルタたちを歓迎してくれた。

 メネスは元近衛騎士団員で、趣味が高じて劇団員となり、今は団長にまでなった異色の経歴を持っていた。

 メネスの隣に座っている吟遊詩人のバドゥールは、伯爵家の騎士と劇団を掛け持っているらしい。


 オールリウス伯爵がなぜフルールたちを劇団に誘ったのかが、なんとなく分かった気がしてサルタは胸を撫で下ろした。

 フルールとマリエラもキラキラとした笑顔で、団長メネスの話を聞いていた。


 ティアオ劇団は本拠地であるリュードの劇場の講演が多いが、声が掛かると地方巡業に派遣されることがあるようだった。

 劇団は演劇だけでなく、音楽の演奏も本格的で、小規模なオーケストラのような役割を果たしている。

 劇団員一人一人が、本格的な働きをしているプロ集団だった。

 オールリウス伯爵自慢の劇団である。


 サルタは何も言うことがなく、フルールたちに結論を任せようと思っている。

 これでドゥラーク男爵の手から完全に守れる。フルールの家族にも安心してもらえるだろう。


 劇場の中を案内してもらうフルールたちの様子を少し離れたところから見ていたサルタは、彼女たちの希望に溢れる真っ直ぐな瞳を見て、小さく頷いていた。


 フルールたちはグレンビー商会に帰り、会長のバンスに伯爵が言ってくれたことを伝えると、ティアオ劇団に入団できることを喜んで応援してくれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る