第39話 伯爵の申し出

 サルタはグレンビー商会のバンスと話をしていた。

「フルールちゃんの事だけど、近々オールリウス伯爵様の所に連れていきたいの」

「それはどうして?」

「フルールちゃんのことを伯爵様が庇ってくだされば、ドゥラーク男爵は手出しが出来ないと思うのよ」

「そうだな。いい方法だけど大丈夫だろうか?」

「そうね。貴方もフルールちゃんの踊りを見ればわかると思うわよ」

「サルタが言うのなら間違いないな。楽しみだよ」


 バンスはサルタと踊るフルールを見て、感動しフルールの才能を褒め称えた。

 サルタはあらかじめオールリウス伯爵に手紙を送り、フルールたちのことを伝えていたため、三日後に謁見が認められた。


「オールリウス伯爵様、本日はお目通り頂き光栄にございます。わたくしサルタが、フルール、マリエラを連れて参りました」

「サルタ、久しいの。そなたの活躍は聞いておるぞ。まずは顔を上げてくれ」

「ありがとうございます」

 サルタたち三人は謁見室に入りオールリウス伯爵の前にいた。


「そなたたちが、サルタがいう踊りの才能があるものたちか?」

「はい。その通りでございます」

「うむ。この後応接室で踊りを見せてもらえぬか?」

「はい。もちろんです」

 伯爵の問いかけにマリエラが答えていた。

 オールリウス伯爵に謁見を求める者がまだ数名控えていたので、サルタたちは応接室で再度会うことが許された。


「サルタさん、私、大きなお部屋にびっくりして声も出ませんでした」

 フルールは少し震えながら、サルタに話していた。

「マリエラちゃんが答えたから大丈夫だわ。貴女は物怖じしないのね」

 サルタは照れくさそうなマリエラの頭を撫でながら、褒めていた。


 応接室にお茶とお菓子が運ばれ、サルタたちはしばらくの間話をしていた。

「待たせてしまったな。では早速踊ってもらおう」

 伯爵は楽しみにしていたのか、ニコニコと笑っていた。

「はい」

 マリエラはティン・ホイッスルを出し音楽を奏で、フルールは音に合わせて踊りを始めた。


 伯爵は拍手をして大いに喜び、フルールたちを褒めていた。

「君たちは今どこに住んでいるのだ?」

「はい。グレンビー商会にお世話になっています」

「そこならば安心だが···私の劇団に入らないか?劇団には寮もあり住むところも食事の心配もしなくてよいぞ。給料も出そう」

 伯爵の破格な申し出にサルタたちは驚いていた。


「えっと···見に行ってもいいですか?」

 好奇心旺盛なフルールは興味津々だった。

 サルタとマリエラは顔を見合せ、目を見張りそして微笑んでいた。

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