第38話 グレンビー商会

 メルカトールは顔をくしゃくしゃにして泣きながら、フルールとマリエラを抱きしめた。

 メルカトールは純粋で真っ直ぐな少女たちの眼差しに、心が洗われるようだった。

 いつでも助けに来るから、困ったことがあったらおじさんに連絡するんだよと言って、メルカトールは商人を証明する札の番号を書き写し、マリエラに渡していた。

「商会にこの番号を見せると、私がどこで仕事をしているかわかるからね」

 と言って、メルカトールは再びフルールとマリエラを抱きしめ、荷馬車に乗って次の町へ去って行った。

「さようなら、メルカトールおじさん」

 フルールとマリエラは荷馬車が見えなくなるまで見送った。


 グレンビー商会のお屋敷は三階建てで、馬車止めがたくさんあった。

 フルールたちが馬車から降りると、商会長と夫人が出迎えてくれた。

「フルールです。お世話になります」

「マリエラです。よろしくお願いします」

「グレンビー商会のバンスだ。こっちは妻のメリィだ。ミトラの友達のペテルくんの妹さんたちだね。こちらこそよろしく」

「まあなんて可愛いのかしら。こちらにいらっしゃい」

 グレンビー商会の商会長夫妻は、フルールたちを歓迎してくれた。

 マルク医師は商会長夫妻と挨拶を交わし、乗って来た馬車で自宅へ帰って行った。

 三日後に往診に来てくれるそうだ。


「疲れただろう?部屋はひとつだが、ベッドは二つ用意したからね」

「ありがとうございます」

 バンスは気を利かせフルールとマリエラを一つの部屋にしてくれていた。二人は手を取り合って喜んでいた。

 バンスは無事についたフルールたちの事を、王都のミトラとデンスのソティラスに手紙を送っていた。


 フルールはノクスの街のシオンとオリビアに手紙を送りたかったので、マリエラに書いてもらうことにした。

 二人は疲れていたのか夕食を食べると直ぐに眠りについた。


 翌日になり思わぬ訪問者が表れた。

 テンラム舞踊団のサルタとイザークが、フルールたちに会いに来てくれた。

 サルタは王都にいるペテルから話を聞いており、故郷であるリュードの街に帰って来ていた。

 バンスとサルタは知り合いで、昨日のうちに聞いていたようだった。

「サルタさん、イザークさん、会いたかったです」

 フルールはマリエラの手を借りて、サルタに駆け寄った。


「フルールちゃん、大変だったわね」

 サルタはフルールを抱きしめた。

「マルク先生のお薬が効いて見えるようになってきたの」

「よくなってよかったわね」

フルールは大きく頷き、サルタに笑顔で答えていた。

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