第3話 フードの女の子

 前に並んでいた女の子は、苺味のアイスクリームを買い、フードで顔を隠し近くのベンチに座ると、上品に匙ですくい美味しそうに食べていた。

 フードからたまに見える青い目は嬉しそうだった。


 女の子を横目に、シオンはナッツがかかった、チョコレートアイスに夢中になり、ベンチが空くのが待ちきれず、立ったままアイスを頬張った。

 甘くて冷たいアイスクリームはとても美味しかった。シオンの住んでいた田舎には、アイスクリームは売っていなかったので、いつか弟や妹にも食べさせてやりたいと思っていた。


 お腹も満たされ、露店も一通り見たシオンは、パン屋に戻ろうと早足で向かっていた。

 フードを被った女の子が雑貨の売ってある露店で、従者とリボンを選んでいた。声を聞くと従者は女性だった。

「フルール様にはこちらの色の方が」

「そうかしら?」

 従者と女の子の会話を聞き、踊っていた女の子と同じ名前だと思い、シオンは近くで立ち止まってしまった。


 女の子と不意に目が合い、気まずくなり咄嗟に会釈した。

 綺麗な青い目だった。

 ハンカチを口元に当てていた女の子は、フードを被り直した。


 シオンはその場を立ち去った。

『綺麗な目をしているのに、どうして顔を隠すのかな?』と疑問に思ったが、パン屋の仕事に集中することにした。


 ♢


 フルールの父は建設ギルドのギルド長だった。


 父のジャンは先代からの仕事を引き継ぎ、自分の代で実績を上げ、ギルド長にまで出世していた。

 ジャンの家は街道の整備や橋の建設などに携わる、古くから続く家系だった。

 ジャンの代になり、ノクスの街以外の周辺の街でも仕事をすることになった為、ギルド長になり手腕を発揮することになった。


 母のオリビアはジャンの幼馴染みで、彼女の実家が借金を抱えて困窮していたところを、ジャンが援助をした縁で結婚したようだった。

 母は父に対して意見をすることはない。


 兄のペテルは建築士を目指し、王都の専門学校で寮生活を送っている。

 利発で思慮深いペテルは妹思いの優しい兄だった。


 父のジャンは飲酒の量が多く、家族に暴力を振るうことはないが、暴言を吐くことがあった。

 特に母オリビアには事あるごとに暴言を吐き、ペテルやフルールは幼い時から心を痛めていた。


 特に機嫌が悪いと物を投げたりすることもあった。


 フルールが8才の時に事故が起きた。

 ジャンの投げた酒瓶が砕け、たまたま近くにいたフルールの顔に破片が刺さり、大量の出血と痛みで気を失ってしまった。


 母のオリビアはフルールを抱え近くの診療所にかけ込んだ。

 ペテルは冷静にお金を持ち母の後をついて行った。

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