第2話 春咲きまつり

 注文のパンが焼き上がり、息つく暇もなく今度は、お客にパンを売る。

 お店に来たばかりのときはお金の計算が苦手だったが、徐々に慣れ、今ではお客と話も出来るようになった。

 三ヶ月にしては上出来だと、親方に褒めて貰い、益々やる気が湧いてくる。


「お祭りの踊りは見たの?」

「は、はい。綺麗でした」

「まあ」

 女将さんに聞かれ、シオンは照れながら答えた。

「ホントに綺麗だったわ。フルールちゃん上手かったわ」

「フルールさんですか?」

「あらそうね。シオンは知らなかったわね。建設ギルドのギルド長の娘さんよ。確か貴方より一つ年下よ」

「建設ギルドの·····」

 女将さんは、踊っていた女の子の名前を教えてくれた。シオンは心のなかで名前を忘れないように繰り返していた。


 女将さんはそれだけ言うと、焼きたてのパンを棚に並べに行った。

 店内も春咲きまつりの話で盛り上がっている。

 シオンはパンを買ってくれた、お客に丁寧にパンを包み手渡して、「ありがとうございました」と大きな声でお礼を言った。


 少しお客が引いたところで、女将さんがエプロンのポケットの中にお金を入れてくれた。

「お祭りで何か買っておいで」

「えっ、あ、ありがとうございます」

 シオンは大きく頭を下げ、女将さんにお礼を言って、お祭りを見に行くことにした。


 食べ盛りのシオンは食べ物を買うことしか頭に無かった。パンの香りでお腹がいっぱいに感じるときもあるが、食べ物を口にした瞬間に、お腹が鳴り出す。

 エプロンのポケットにそっと手を入れ、女将さんがくれたお金を確認してみた。

 エプロンを取り、お金をズボンのポケットにしまうと、自然と笑みがこぼれた。

 思った以上にお金が入っていた。

 エプロンをハンガーに掛け、女将さんに声を掛けお店を出た。


 街の広場の中心には舞台が設けられ、踊りや歌、楽器の演奏などが続いていた。

 少女の踊りを皮切りに色々な催し物が始まったようだった。

 舞台にはシオンの目を惹くようなものは無かったので、お店を見て回ることにした。

 シオンは麺と一緒に肉と野菜を焼いたものと果実水を買い、広場の端にあったベンチに座り、麺をフォークですくい大きな口で頬張った。


 肉はカリカリに焼けて香ばしく、野菜も歯応えが残り、柔らかい麺は甘辛いタレが絡んで、美味しかった。果実水を飲み、一息ついてまた頬張った。いくらでも食べられそうだった。

 フォークについてあった紙で口を拭い、お菓子が食べたくなってお店を探しに行った。


 目的のアイスクリーム屋さんに着くと、大きなフードを被った女の子が、従者を連れ、列に並んでいた。

 彼女の後ろに並び順番を待った。

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