第4話 不慮の事故

 父のジャンは酔いが深く、ふらふら歩きそのまま二階の寝室に行き朝まで寝ていた。

 朝になりジャンが目覚め、リビングに降りたが家には誰もいなかった。

「おい、オリビア。オリビア返事をしろ!」

 誰も答えることはなかった。

「ふんっ。役立たずがっ!」

 近くにあった椅子を蹴飛ばし、台所に置いてあったグラスに水を入れ、一気に飲み干した。


 ジャンは何事も無かったように仕事に出掛けた。


 仕事が終わり家に帰ったジャンは、

「おい!誰かいないのか!」

 怒鳴りながら、息子や娘の部屋に向かったが誰もいなかった。

 リビングに戻り、

「はぁーっ。どうなってるんだ」

 と言いながら、ウイスキーの瓶の蓋を開けた。


 玄関から物音がしたので出てみると、息子のペテルが帰ったところだった。

「なんだおまえ。何処に行っていたんだ!」

 ジャンの怒鳴り声に、ペテルは大きく溜め息をつき、

「診療所ですよ。覚えていないんですか?フルールに怪我をさせといて·····?」

「何の事だ。何を言っているんだ」

 ジャンは焦ってペテルに聞いた。


「丁度よかったです。父さんも診療所に行って下さい」

「どうして俺が?」

「行きたくないのならいいです。俺はフルールの着替えを取りに来ただけですから」

「ああ、·····では一緒に行こう」

 ペテルは不満げな父に辟易し、フルールの着替えを持ち、父と一緒に診療所に行くことにした。


 フルールはまだ意識が戻らなかった。

 精神的ショックが大きいのだろう。

 高熱が出てうなされていた。


 ジャンは診療所に着き、辺りを見回しながら、ペテルと娘の病室に向かった。


 ジャンは娘の姿を見て、腰が抜けたように動けなくなった。

『どうした。何があったんだ』

 気が動転して言葉も出なかった。

「父さんが投げた酒瓶の破片が、フルールの顔に刺さったんだ」

 ペテルが冷静に言った。

「どうせ、覚えてないのでしょうね」

 ペテルはジャンを睨み失笑していた。


「お、俺は·····」

 ジャンは全く記憶になかった。

 ジャンをよそにペテルは、

「母さん、フルールの着替えです」

「ありがとう」

 母は小さな声で答え、ジャンには何も言わなかった。

「父さん。明日も仕事でしょ。フルールには僕たちがいますので、帰って貰っても大丈夫ですよ」

 ペテルは冷めた声でジャンに帰宅を促した。


「ああ·····」

 とだけ言い残し、ジャンは重い足を引き摺るように診療所を後にした。


 ジャンは顔に包帯を巻いている娘の顔を、まともに見ることが出来ず、事実を受け止めることが、まだ出来ないでいた。

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