第22話 男爵領主からの手紙
しばらくは平穏な日々が続いていたが、『春咲きまつり』の日から二ヶ月が過ぎた頃、ドゥラーク男爵領主ラーシュから手紙が届き、フルールに呼び出しがかかった。
男爵は『春咲きまつり』のフルールの評判を聞きつけ、息子ポルトの誕生日祝いの宴に、フルールの踊りを披露したいので、男爵邸に来て欲しいとのことだった。
父のジャンはしばらく考え込んでいたが、直接フルールに聞くことにした。ジャン自身は娘を人前に出すことに戸惑いを感じていたが、決めるのはあくまで娘本人であると自分に言い聞かせ、フルールを呼び男爵様の手紙の内容を伝えた。
「フルール。ドゥラーク男爵様が息子様のお誕生日祝いの席に、君の踊りを披露して欲しいと言ってきているが?返事は今すぐでなくてもいいから今週中に返事を聞かせてくれるかな?」
「はい。わかりました。お母様とマリエラに相談してから決めます」
「ああ、そうしてくれるか」
「はい」
フルールは早速、オリビアとマリエラに相談することにした。
「フルールはどうしたいの?」
オリビアはフルールに優しく問いただした。
「···マリエラが一緒なら行ってもいいかな···?でも···」
「不安なのね」
「はい」
オリビアは悩んでうつ向いている娘に、
「返事は直ぐでなくてもいいのでしょ?もう少し考えてみてね。私は貴女の気持ちを応援するわ」
オリビアはフルールに自分で答えを出して欲しかった。
オリビアが反対すれば、直ぐに答えは出ていたが、どうしても娘の本当の気持ちが知りたかった。自分の事は自分で考え、結論を出して欲しかった。
どんな結果になろうとも娘の出した答えを尊重し、娘を支えるのが親の役目だと思っている。
オリビア自身が思い描いる娘の人生を、そのまま娘に押し付けたくはない。
親とはいえ一人の人間として娘のことを見守り一番の味方でいたかった。
マリエラは悩んでいた。
フルールが傷つくことを恐れていた。
型にはまらない自由な踊りで、笑顔でいるフルールが何よりも愛おしかった。
マリエラは一人っ子だが、フルールのことを本当の妹のように思っている。
フルールの出した答えに従いたいし、同行するつもりでいるが正直不安でいっぱいだった。
家族の心配を余所に、フルールは楽しい事ばかりを考えていた。
ドゥラーク男爵領の中心部であるノクスの街の郊外に建つ男爵邸は、高台にあり景色も綺麗で大きくて素敵なお屋敷だど評判だった。
好奇心旺盛なフルールは男爵様にもお会いしてみたかった。
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