第21話 ノクスのパン屋
数日後、フルールとマリエラはノクスの街に買い物に来ていた。
お祭りの舞台のあった広場の近くに来ると、パンの香ばしくて美味しそうな、いい匂いがしてきた。
人気のパン屋さんらしく、お客さんがたくさん出入りしていた。
マリエラはお昼ごはんにどうでしょうか。と言いながら、ここまで漂ってくるパンの香りをくんくんと大袈裟に嗅いでみせた。
二人は顔を合わせ笑いあった。
フルールもパンが大好きだった。
フルールはフードを被り直し、マリエラとパン屋に入っていった。
「いらっしゃいませ」
元気な男の子の声がした。
フルールは迷いながらマリエラとパンを選び、会計の列に一緒に並んでいた。
「ありがとうございます。あら、フルールちゃん。お祭りの踊りよかったわ。上手だったわね」
厨房の中から出てきたパン屋の女将さんが、フルールを見つけて、挨拶をしてくれた。
「ありがとうございます」
フルールは恥ずかしそうに下を向いて、小さな声でお礼を言っていた。
「おまけしておくわね」
と言って女将さんは、焼き上がったばかりのパンを二個パンの袋に詰めて渡してくれた。
「シオン。フルールちゃんのお会計頼んだわよ」
シオンと呼ばれた男の子は「はい」と女将さんに返事をし、
「貴女がフルールさんですね。踊りが上手なんですね」
と言ってくれた。
男の子と目が合って恥ずかしくなり、
「ありがとうございます」
とフルールは早口で言い、マリエラの陰に隠れた。
「あらあら、フルールちゃん。うちのシオンはね田舎から出てきて、この間からうち働いてくれているのよ。ノクスの街には知り合いがいないから、話をしてあげてね」
「はい。また来ます」
女将さんの言葉に、フルールは小さな声で答えた。
シオンは顔が赤くなり、下を向いてしまった。
「シオン。お友達が出来てよかったわね」
「女将さん···」
フルールもシオンも女将さんに圧倒されていた。
マリエラはくすくす笑い、フルールとシオンを見ていた。
数回パン屋を訪れる頃には、フルールも、シオンも照れずに話をすることが出きるようになっていた。
シオンは南の町メリディの農村地区の出身で、年はフルールのひとつ上で、弟と妹がいるようだった。
フルールはノクスの街か王都しか知らず、シオンの農村地区での話はとても面白かった。
シオンの休憩時間に会いにきて、小動物や虫の話、山や川での遊びなど、フルールの興味をひき、シオンとの話は楽しくて仕方がなかった。
二人は次第に打ち解けて、シオンがパン屋の休みの日は、フルールの家に遊びに来るようになっていた。
マリエラ、シオン、フルールの三人はとても仲がよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます