第20話 初舞台

 フルールは緊張していた。

 サルタは二週間もつきっきりで、フルールにお祭りで着る衣裳を身につけさせ、踊りの確認をしていた。


 柔らかな素材の衣裳は、上下に分かれているので踊りやすく、顔の下半分を覆う布も、薄いレースなので、息苦しくなかった。

 フルールの身長と同じぐらいの長さで、幅の狭いストールのような、シースルー素材の軽い布を持って踊ることになった。


 手持ちの布は軽いので、布を纏うような踊りができる。布の端には小石ほどの重りをつけ、重りを上に投げて布をたなびかせ、風を表現し、花びらをまき、春の訪れを感じさせる踊りに仕上げていた。

 腰の後ろに小さな花籠をつけ、フルールも踊りながら、花びらをまくことができるようになっている。

 足には鈴を着け、踏み出した時に音が大きくなるような振り付けになった。


 衣裳の色は薄いピンクで、手持ちの布は薄いグリーンだった。

 髪は後ろでひとつにまとめ、薄いグリーンのヘアーバンドには、同じ色の羽がついている。

 靴は幅の広いヒールで、高さも低めで踊りやすい。

 フルールは春の妖精のように可憐だった。


 演奏は弦楽器のみで、優雅で伸びやかな演奏になっている。


 弦楽器の音が流れ、フルールの出番がやってきた。

 フルールは緊張していたが、音楽が鳴り出すと、いつものように踊りに集中することができた。

 踊りを終えたフルールは、いつも通りの踊りが披露できてとても気分がよかった。

 サルタやオリビア、手伝ってくれた人も、拍手で出迎えてくれみんな喜んでくれた。

 フルールはみんなに感謝の気持ちを伝えた。


「みなさん、応援してくれてありがとうございました」

「フルールちゃん、とても上手だったわ。今度は私とも一緒に踊ってね」

 サルタの言葉がとても嬉しかった。フルールもいつかサルタと一緒の舞台で踊ることを、心から願っていた。


 大役を果たしたフルールは、お祭りも楽しみだった。

 露店で売っている、苺のアイスクリームを食べるのを楽しみにしていた。

 フルールはいつものようにフードを被り、マリエラと手を繋いで露店回りを始めた。


 苺のアイスクリームを食べるフルールの顔は、とても嬉しそうで、隣で見ていたマリエラまで幸せな気分になった。

 露店にはノクスの街では見かけない物がたくさんあり、目移りしてしまう。

 専門学校で実習体験の授業のある兄は、多忙なためお祭りには帰ってこれず、フルールは兄のために、お土産を買うつもりで、マリエラに相談していた。


 雑貨屋で自分のリボンと、兄に渡すハンカチを選んでいる時に、同じ年頃の知らない男の子に挨拶をされて、思わず顔を隠してしまった。

 上手く挨拶を返すことができず、後悔していた。

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