第19話 サルタの思い

 オリビアとペテルがフルールたちを迎えにきた。

 オリビアは一度サルタと話がしたかったので時間を作って欲しいとお願いした。

 サルタは快く応じてくれた。


「サルタさん。フルールのこと、ありがとうございます。娘が明るい顔になったのは、あなたのお陰です」

 オリビアは涙目でサルタにお礼を言った。

「私だけの力ではないですよ。フルールさんは元々明るい性格の娘さんです。踊りや歌がとても好きなんですね」

「はい。小さな頃からずっと好きですね」

「私もフルールさんと同じです。たまたま街に来ていた舞踊団を追っかけて入団したのですから」

「まあ、そうなんですか。だからフルールに親切にしてくださるのですね」

「はい。私も子どもの頃から歌と踊りが大好きなんです」


「私の目から見てもフルールさんは、人を惹き付けるものがありますので、一緒にいると私が楽しいのです」

 オリビアはサルタの手を取っていた。

「これからも娘をよろしくお願いします」

「こちらこそ。大切なフルールさんを預けて下さってありがとうございます」

 挨拶を終えオリビアと子どもたちは宿に帰って行った。


 移動時間を考えると王都にいられるのも後三日間位だった。

 毎日とはいかなかったが、時間の許す限りフルールはマリエラと共にサルタの元に通った。

 再会を約束して、オリビアたちはノクスの街に帰って行った。


 サルタはあっという間に過ぎた、フルールとの数日間のことを考えていた。

 フルールに踊りを教えていると、サルタは懐かしい気持ちになっていた。

 踊りを始めた時の記憶が甦ってきた。


 前団長が高齢で引退することになり、今のテンラム舞踊団の団長とサルタの二人が中心となって、新しく舞踊団を立ち上げたのだった。団員を増やし、興行場所を決め、独立させた舞踊団が王都で人気になるまでには苦労もあったが、踊りが好きなサルタは団長と力を合わせ、努力と情熱を持って邁進してきた。


 テンラム舞踊団の団長のイザークとサルタは同士であった。


 ♢


 フルールは11才になり、ノクスの街の『春咲きまつり』で、初舞台を踏むことになった。

 大役の打診をされたフルールは、最初は荷が重いと断るつもりでいたが、サルタに手紙で相談すると、やってみた方がいい、少し前に指導に行くと言われ、お祭りの運営者に引き受けると返事をした。 

 サルタには新しい衣裳もこちらで作ると言われ、テンラム舞踊団の演奏者もフルールのために新たに曲を作って、演奏もしてくれるらしい。

 今回の舞台でマリエラは、花びらをまく演者になると言ってくれた。


 フルールは不安に思いながら、みんなの支えに感謝し、前を向き、自分にできることを一生懸命に頑張ろうと思った。

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