第12話 テンラム舞踊団

 今年の『春咲きまつり』はノクスの街の五十周年ということもあり、王都からサルタ率いるテンラム舞踊団の演目を皮切りにお祭りが始まる。


 街の中央広場には舞台の設置が始まり、開催までまだ3日もあるというのに、街の人達は落ち着かない様子で、舞台の組み立ての様子を横目で見ながら歩いていた。


 フルールは普段出かける事がほとんど無くなっていたが、お祭りの日のおしゃれが楽しみで、マリエラの意見を取り入れ、母オリビアに紺色のフードに刺繍をお願いした。

 オリビアはフードの縁に薄紅色や黄色、白色や橙色のクレマチスの花を散りばめたデザインの刺繍をしていた。

 可愛いフードの出来栄えに、フルールは満面の笑みで、フードを抱えながら、くるくると回り、兄のペテルやマリエラに自慢をしていた。

 久しぶりの愛くるしい振る舞いの妹を見たペテルは、心から嬉しく思っていた。


 フルールのおねだりは止まらず、マリエラが着るジャケットや、ペテルのベストにも同じクレマチスの花の刺繍をオリビアに頼んだ。

 オリビアも娘のおねだりに喜び、それぞれの服の色に合わせて、花の色を変え刺繍を入れていた。


 三人で服を着て並んでいると、きょうだいのようだった。

 オリビアは自分の刺繍に喜んだ子どもたち三人を優しく抱きしめた。


『春咲きまつり』当日がやって来た。

 ペテル、マリエラ、フルールの三人は、オリビアの刺繍の入った服を身に着け、手を繋ぎお祭りのメイン会場の舞台の近くにやって来ていた。


 子どもだということで、大人達は前で見るように促してくれ、三人は舞台の前の見やすい場所に移動した。

 三人はドキドキが止まらなかった。

 お互いの手をしっかり握りしめ、間もなく始まる舞踊団の踊りを楽しみに待っていた。


 舞台の下手から弦楽器の音が聞こえてきた。

 さっきまの喧騒が嘘のように静まり、優雅な弦楽器の音だけが広場に響いていた。


 舞台の上手から、異国の衣裳を身に纏った華奢な女性が一人舞台の中央に現れた。  

 美しい布で顔半分を覆い隠し踊る女性に、フルールはときめいていた。

 時折上手や下手から、籠を持った少女たちが交代で、花びらを撒いていた。


『顔の傷を隠して踊れるなら、私もみんなの前で踊ってみたい』

 フルールは心に強く思い、女性の踊りから目が離せなくなった。


 三人でお祭りを楽しむ予定だったが、フルールは舞踊団の女性に直ぐに会いたかった。会って話を聞いて欲しかった。

 フルールはペテルとマリエラに自分の気持ちを打ち明けた。



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