第11話 三人きょうだい

 マリエラは故郷のソリスに帰って来た。

 近所のおばさん達に声をかけ、両親の事や自分の事を話し、家には帰らないことを告げた。

 持ち出したい物だけを馬車に乗せ、後は処分してもらえるようにお願いした。

 費用は働いたお金で少しずつ返していくつもりでいたが、ジャンの家からついてきて貰っていた供の人が、旦那様から預かっていると、お金を渡してくれた。


 マリエラはお金を見て驚いたが、旦那様になら毎月のお給料から返せるので、ありがたく使わせてもらうことにして、近所のおばさん達にお金を渡し、改めて家の処分を頼んだ。

 余ったお金はおばさん達で分けてもらい、足りない分は手紙で知らせてくれるようにした。

 足りない事はないだろうと、おばさん達は言っていた。


 後日、ソリスの町のおばさん達から、店の物が売れたとお金を送ってくれた。

 正直で優しい人達に感謝した。

 マリエラはお給料が出たらお返しに、王都で日持ちするお菓子を買って、おばさん達にお礼をしようと思っていた。


 ジャンは、マリエラの家の処分にかかった費用や宿泊費等を一切、彼女から受け取るつもりはなかった。


 フルールの従者は楽しかった。

 彼女は左頬の傷を気にしていたが、マリエラは気にならなかった。青い瞳が美しく、明るく素直な性格は妹のように可愛く、一緒にいることにマリエラは幸せを感じていた。

 仕事をしている感覚がなくなる時があったので、気を引き締めるために、動きやすいズボンを履く事にした。上着もシンプルな服にした。

 フルールもマリエラのズボンを履いた姿が気に入っていた。

 背が高くやせ形体型のマリエラは、男装のような服装がよく似合っていた。


 努力家で博学なマリエラは、兄のペテルとも話が合い、まるで三人きょうだいのようだった。

 ジャンは人を見る目に長けていた。


 家にも使用人が増え、母のオリビアも家事の負担が減り、得意の刺繍や読書をするようになり、家族は穏やかな生活を送っていた。


 ♢


 頬に傷を受けてから一年が過ぎ、フルールは9才になった。ノクスの街には春の訪れとともに今年も『春咲きまつり』が開催されることが決まった。

 今年のお祭りは特別に、王都で人気のテンラム舞踊団が訪れることになっており、街の人達はいつも以上に楽しみにしていた。

 テンラム舞踊団のサルタは独創的な衣裳と踊りで、王宮のパーティーなどに何度も呼ばれ舞踊を披露していた。

 サルタの噂はノクスの街まで届いていた。


 ペテルは猛勉強の末、専門学校に合格し、『春咲きまつり』が終わった後、王都の学生寮に入ることが決まっていた。


 大好きなペテルに会えなくなることが寂しかったが、マリエラがいてくれるので、フルールは泣かずに兄を見送ろうと考えていた。


 三人は『春咲きまつり』に行くことが、今から楽しみで仕方なかった。

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